用途事例・VOC

1. はじめに

通常の真空装置では、排出ガスの主成分は水であるため、装置の排気時間や到達圧力はその装置に使用されている真空ポンプの水に対する排気速度で決定される。

例えば、ターボ分子ポンプの場合は水に対する排気速度は大きくないため、大気にさらされた状態から排気を行った場合には、所定の圧力に達するまで長時間を要することになる。

拡散ポンプの場合は油蒸気の逆流防止のため冷水バッフルが使用されるため、やはり水に対する排気速度が低下することになる。

また、油蒸気の逆流防止効果を兼ねて液体窒素で冷却されるトラップが使用されるが、この場合は、水に対する排気速度はクライオポンプと同じ最大値が得られる。しかし、液体窒素の消耗による運転コストの増大が問題となる。

液体窒素の代わりにフレオン冷凍機を使用した冷凍バッフルや冷凍トラップが使用される場合もあるが、フレオンは地球環境に対する影響から使用が制限されつつあり、いずれは使用が困難になってくるものと考えられる。また、フレオン冷凍機は、冷凍能力は大きいが到達温度が140K程度であるため高真空領域では性能が低下してくる。

スーパートラップは小型ヘリウム冷凍機を使用しており、環境破壊の問題を起こす心配が全くなく、80K以下の温度まで冷却でき、低真空領域から超高真空領域まで広い範囲で使用することができるなどの特徴があるため、ターボ分子ポンプの排気性能の改善や拡散ポンプのトラップとして、また、水排気専用の真空ポンプとして使用されている。

ここでは、スーパートラップの構造と性能、およびスーパートラップの使用例とその効果について説明する。

2. スーパートラップの構造と排気の原理

スーパートラップに使用されている冷凍機システムは、クライオポンプに使用されている2段式冷凍機を1段に改造したG-Mサイクルの小型ヘリウム冷凍機とコンプレッサで構成されてる。

冷凍機の1段ステージは80K以下の温度に冷却され、ここに取り付けられた80Kクライオパネルにより、水などの蒸気圧の低い気体を凝縮し排気する。

80Kのクライオパネルの温度は、CA熱電対によって知ることができる。
スーパートラップには2つのタイプがあり、拡散ポンプの液体窒素トラップのように気体を通過させることのできる通過型と、直接真空装置に取り付けられる直付け型とがある。

通過型(図1)は、クライオポンプや拡散ポンプと直列に使用され、真空ポンプの水に対する排気能力をアップすることに使用される。

この場合は、窒素やアルゴンなどの80Kクライオパネルでは排気されない気体に対しては、排気抵抗となるため、適切なコンダクタンスに設定することが必要である。

一方、直付け型(図2)は、排気系とは独立して真空容器の壁に直接、またはバルブを介して取り付けられるタイプであり、排気系とは並列に設置されるタイプである。

この場合は、排気系の排気速度はそのまま生かし、水に対する排気速度のみを増大させることが可能となる。すなわち、水に関しては、クライオポンプを1台増設した場合と全く同じ排気性能が達成できることになり、最も効率よく水を排気することができる。また、コンダクタンスなどの問題も発生しないため、構造、取扱も簡単である。

図1:通過型スーパートラップの構造
fig-1.gif
図2:直付け型スーパートラップの構造
fig-2.gif
fig-3

3. スーパートラップの再生

80Kクライオパネルに凝縮した水は、その量が多くなってくると、氷の表面温度が高くなってくる。氷の表面温度が130Kを超えると排気性能が低下してくるため、氷を除去する再生が必要となる。再生は、冷凍機を停止させ80Kクライオパネルの温度を室温まで昇温させて氷を溶かし、外部に排出することにより行うことができる。

再生時の昇温は、真空を破った後の自然昇温で行われるが、昇温時間を短縮したい場合は、スーパートラップの真空容器の外側にバンドヒーターを取り付け加熱する方法がある。氷を外部に排出したら、スーパートラップを真空排気し、起動・冷却する。クライオパネルの温度が130K以下に低下したら再び水を排気することができる。

4. スーパートラップの用途

水を効率良く排気する必要のある真空装置では、クライオポンプが使用されるが、水素を大量に排気する必要のある場合は、クライオポンプには排気の限界があること、また、可燃性の気体を大量に溜め込んだ場合、再生時に安全上の問題が発生することなどにより、拡散ポンプやターボ分子ポンプなどのような連続的に排気できるポンプが使用される。

また、真空装置側から油蒸気等の汚染物質を大量に排気しなければならない場合は、拡散ポンプが使用される。しかし、前述のようにターボ分子ポンプや拡散ポンプは水に対する排気速度が小さいために、その点を補うためにスーパートラップが使用される。その主な用途は、

(1) 水排気専用のポンプ
真空ロー付炉、真空熱処理炉、巻取式連続蒸着装置、蒸着装置、スパッタ装置、イオンプレーティング装置

(2) 排気系の性能アップ
拡散ポンプの性能アップ、拡散ポンプの液体窒素トラップの代替、ターボ分子ポンプの性能アップ

などである。特に、ガラス、プラスチック、セラミックへの成膜の場合は、大量の水が放出されるので、非常に効果的である。スーパートラップは、概設の装置でも取り付けスペースがあれば、簡単に取り付けることができ、大幅な排気時間の短縮が達成される。

5. 拡散ポンプへの応用

図3は22インチの拡散ポンプ付の真空ロー付炉に22インチのスパートラップCRYO-T22を取り付けた例である。


図3:拡散ポンプへの取付け例

fig3-3.gif



この装置の場合の目標とする圧力は6.7×10-3Paであるが、スーパートラップを取り付ける前は、この圧力に到達するのに約160分を必要としていたが、スーパートラップを取り付けることにより、排気時間は1/2に短縮することが可能となった。(図4参照)

図4:拡散ポンプでのスーパートラップの効果

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拡散ポンプにスーパートラップを使用する場合は、スーパートラップと拡散ポンプの間に水冷バッフル等の拡散ポンプからの輻射熱をさえぎるものが必要である。

6. スパッタ装置への応用

スパッタ装置では、大流量のアルゴンを導入し、10-1Pa台が必要であるため、コンダクタンスバルブで排気速度を制限している。

この場合は、アルゴンに対する排気速度を制限することが目的であるのだが、水に対する排気速度も同時に制限してしまう。

図5はこの問題を解決するためにスーパートラップを使用した例である。この場合は、水に対する排気速度はコンダクタンスバルブのコンダクタンスの影響を受けないために、水に対しては常に一定で最大の排気速度が得られるため、成膜室の水の分圧を下げることができる。

図5:スパッタ装置への応用例

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図6はこの装置で、スーパートラップをONにした場合とOFFにした場合の排気特性を調べたものでスーパートラップをONにすると圧力は約1/4に低下し、排気時間の短縮、到達圧力低下にスーパートラップの効果が実証された。


図6:スパッタ装置での排気特性

fig3-6.gif

7. おわりに

スーパートラップは4~22インチと種類が多く、小型・中型の機種では1台のコンプレッサーで複数のスーパートラップが運転できるため、経済的なシステムが可能である。(表1参照)

スーパートラップは、高性能で応用範囲が広いため、今後ますます使用されていくものと思われる。

表1:スーパートラップの種類
口 径 機 種 冷 凍 機 圧縮機
6 CRYO-T6 RMS10T C10T,C10AT
8 CRYO-T8 RMS10T C10T,C10AT
10 CRYO-T10 RMS10T C10T,C10AT
14 CRYO-T14 RMS10T,RMS50T C10T,C10AT,C30VRT
16 CRYO-T16 RMS50T C30VRT
20 CRYO-T20 RMS50T C30VRT
22 CRYO-T22 RMS50T C30VRT

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