トラブルシューティング
クライオポンプ - 安全に使用するために
1.圧力に対する注意
クライオポンプは凝縮性の気体を大量に貯め込むことができる。
(表6-6参照)が、クライオポンプの内容積は数十L程度であるため、クライオポンプを密閉した状態で昇温させると内部の圧力が数十気圧にも達し、非常に危険である。
そのため、クライオポンプには必ず安全弁が取り付けられており、内部の圧力が高くなった場合に、内部の気体を外部に放出し圧力が上昇しすぎないようにしている。
安全弁は20kPa(gage)で開くように設計されている。
安全弁は安全のためにあるものであるため、安全弁を塞いだり、改造したり、再生時のガスパージ用バルブの代わりなど、他の用途のためには絶対に使用しないこと。
クライオポンプには、必ず再生時のガスパージのためのバルブを設け、パージすること。
クライオポンプに導入する再生用の窒素ガスの圧力は、安全弁が作動しないように20kPa(gage)以下に減圧しておくこと。
ガスパージ用バルブのオリィフィスは大きいものを使用し、ポンプの内圧が上昇しすぎないように注意すること。
安全弁が作動した場合は、安全弁のシート面にごみ等が付着しリークすることがあるので、安全弁の清掃を励行してください。
また、有害ガスを使用している場合は、安全弁にダクトを取り付け処理設備に導き、外部に漏れないように安全には十分留意すること。
2.燃焼、爆発性ガスを排気するとき
クライオポンプは溜め込み式のポンプのため、ポンプ再生時あるいは昇温時、排気されたガスがポンプ内に再放出されます。排気されたガスは純粋な単一ガス体であることはまず考えられません。他のガス、特に空気との混合である場合が多いと思われます。そこに引火の原因があれば燃焼あるいは爆発をおこすことになります。
(1) 真空計のフィラメントの点灯による点火
(2) 加熱ヒーター類による引火
(3) 静電気による点火
静電気は、粗引き配管や排気ダクトが塩化ビニールなどのプラスチックである場合に発生しやすくなります。粗引き配管、排気ダクトなどはすべて金属製の配管にすることを強く推奨します。その時、配管は必ず接地してください。接地抵抗として100Ω以下にしてください。
表1:主要がスの特性、燃焼範囲と爆ごう範囲(空気との容量%)
ガス名 | 分子量 | 比重 0℃,1atm 空気=1 |
沸点 K |
燃焼範囲 Vol % |
爆ごう範囲 Vol % |
---|---|---|---|---|---|
水素 H2 | 2.016 | 0.070 | 20.3 | 4.0~75.0 | 18.3~59 |
一酸化炭素 CO | 28.01 | 0.97 | 81.7 | 12.5~74.0 | - |
硫化水素 H2S | 34.08 | 1.19 | 213.6 | 4.3~45.0 | - |
シラン SiH4 | 32.14 | 1.107 | 161.2 | 0.8~98 | - |
アルシン AsH3 | 77.94 | 2.692 | 210.7 | 0.8~98 | - |
ホスフィン PH3 | 34.00 | 1.146 | 185.5 | 1.3~98 | - |
ジボラン B2H6 | 27.67 | 0.955 | 180.7 | 0.8~98 | - |
アンモニア NH3 | 17.03 | 0.59 | 239.8 | 15~28 | - |
メタン CH4 | 16.04 | 0.555 | 111.6 | 5.3~14 | - |
エタン C2H6 | 30.07 | 1.04 | 184.6 | 3.0~12.5 | - |
プロパン C3H8 | 44.10 | 1.550 | 231.1 | 2.2~9.5 | - |
エチレン C2H4 | 28.05 | 0.978 | 169.5 | 3.1~32 | - |
アセチレン C2H2 | 26.04 | 0.907 | 198.2 | 2.5~100 | 4.2~50 |
表2:酸素と可燃性ガス混合物の燃焼範囲及び爆ごう範囲
ガス名 | 燃焼範囲(Vol %) | 爆ごう範囲(Vol %) |
---|---|---|
水素 | 4~94 | 15~90 |
アセチレン | 2.3~94.5 | 3.5~93 |
メタン | 5.1~61 | - |
プロパン | 2.3~55 | 3.7~37 |
一酸化炭素 | 15.5~94 | 38~90 |
アンモニア | 15~79 | 25.4~75 |
3.クライオポンプで酸素を排気するとき
クライオポンプ内の酸素は、燃焼の原因になり危険です。
プロセスガスに酸素をお使いになるときは、次のような特別な注意が必要です。
クライオポンプの取扱説明書にしたがってクライオポンプを取扱ってください。
さらに次のことに注意してください。
☆クライオポンプの再生中、クライオポンプに点火の原因となるもの(例えば、フィラメントタイプの真空計を点灯するなど)がないようにしてください。
以下図2を参照下さい。
①クライオポンプから排出されるガス用配管は金属配管とし接地させて静電気の発生がないようにして下さい。
②不活性ガスを適切な量、導入して再生を行って下さい。
③クライオポンプから排出されるガスが大気に放出される前に燃焼範囲以下の濃度になるよう排気ダクトに不活性ガス(例.N2ガス)を導入して希釈して下さい。
④排気ダクトへのN2希釈はクライオポンプの再生開始と同時に行って下さい。それは、クライオポンプから排気ダクトにクライオポンプ内のガスが放出された時に排気ダクト内には空気(酸素)が無いようにするためです。
⑤クライオポンプの安全弁は排気ダクトに接続し, 安全弁が吹いた場合でも不活性ガスで希釈されるようにして下さい。
クライオポンプ中の酸素と反応する物質の量が最小限になるように再生周期を決めて再生をおこなってください。
クライオポンプ内の酸素濃度が空気よりも高い状態(例.停電後)で粗引きすることは避けて下さい。必ず不活性ガスで希釈してから行って下さい。
より安全に再生を行うために, 粗引きポンプとして油回転ポンプをご使用の場合は、潤滑油を酸素と反応しにくい無機物のフォンブリン油と交換して使用するか、又はドライポンプを使用されるようお願いします。
停電後の真空槽も即真空引きしないで下さい。真空引きする前に必ず不活性ガスで希釈してから行って下さい。
クライオポンプ内のオゾンは、爆発の原因になります。
オゾンは、酸素をプロセスガスとして使用するときに発生する可能性があります。
オゾンは、イオン化プロセス中(例えば、スパッタリング、エッチング、グロー放電,EB蒸着)、知らないうちに生成されている可能性があります。
特にクライオポンプの再生中は、オゾンがあると爆発する危険があります。
オゾンの発生を知るために、次のような項目をチェックしましょう。
再生開始の数分で放電するようなパチパチ、ポンポンという音がする。
再生時、クライオポンプから排気されるガスにアーク溶接の時のような刺激臭がある。
プロセスの変更がオゾンの発生量を増加させる可能性があります。
多量のオゾンは、激しい爆発の原因になり、非常に危険です。
オゾンが発生した場合、次のような点に注意してください。
1.上記の酸素に対する注意にしたがってください。再生の頻度を増やし、クライオポンプのオゾン量を最小限におさえてください。必要な再生の回数は、流量やプロセスにより異なります。毎日、再生をおこなう必要があるかもしれません。
2.プロセスに影響がない限り、酸素の導入量を最小限に減らしてください。
*酸素を排気するときは、装置メーカー又はアルバック・クライオ(株)にご相談ください。上記項目以外に下記の対策が必要か検討致します。
停電時にもクライオポンプ内, 排気ダクト内にN2導入できるように制御回路を組んで下さい。このためには無停電電源が必要となります。最低必要なのは温度計、クライオポンプへのN2パージ用バルブとクライオからのガス排出用バルブ、クライオ内の大気圧確認器そして排気ダクトへの希釈用N2導入バルブです。
停電後再生が必要か否かはクライオポンプ2段温度が20Kを超えているかどうかで判断下さい。20Kを超えている場合は再生を実施, 以下の場合はそのまま再起動して下さい。
図1:酸素/可燃性ガスの希釈方法(1)
4.可燃性ガスを排気した後の再生について
可燃性ガス(プラズマ反応などにより真空槽内部で可燃性ガスが生成される場合も含む)を排気した後のポンプの再生については特に注意してください!
・水素ガスの生成例としては、プロセスガスの分解、ターゲット材及び蒸着材からの放出、基板及び内容物からの放出ガス(H2O)の分解等が考えられます。
可燃性ガスを排気した後油回転ポンプを用いて再生を行う場合、可燃性ガスと空気が油回転ポンプの排気口又は排気ダクト内で混合し、引火の原因があれば燃焼又は爆発するおそれがあります。しかし、可燃性ガスが充分希薄であり、燃焼範囲(表2参照)以下であれば、燃焼又は爆発の危険はないと考えられます。
可燃性ガスを溜めこんだクライオポンプを再生する場合は酸素を排気する場合と同様に次の点にご注意下さい。
・クライオポンプの再生中、クライオポンプに点火の原因となるもの(例えば、フィラメントタイプの真空計を点灯するなど)がないようにしてください。
以下図2参照下さい。
①不活性ガスを適切な量、導入して再生をおこなってください。
②クライオから排出されるガス配管は金属配管とし接地させ静電気の発生がないようにして下さい。
③クライオポンプから排出されるガスが大気に放出される前に燃焼範囲以下の濃度になるよう排気ダクトに不活性ガス(例.N2ガス)を導入して希釈して下さい。
④排気ダクトへのN2希釈はクライオポンプの再生開始と同時に行い、クライオポンプから排気ダクトにクライオポンプ内のガスが放出された時には排気ダクト内には空気(酸素)が無いようにして下さい。
⑤クライオポンプの安全弁は排気ダクトに接続し、安全弁が吹いた場合でも不活性ガスで希釈されるようにして下さい。
⑥停電後クライオポンプ内や真空槽を真空引きしないで下さい。真空引きする前に、必ず不活性ガスで希釈してから行って下さい。
⑦クライオポンプ内の可燃性ガス量が燃焼範囲以下の濃度にN2パージや、 N2希釈できる範囲で再生周期を決めて再生をおこなってください。
*可燃性ガスを排気するときは、装置メーカー又はアルバック・クライオ(株)にご相談ください。上記項目以外に下記の対策が必要か検討致します。
停電時にもクライオポンプ内、排気ダクト内にN2導入できるように制御回路を組 んで下さい。このためには無停電電源が必要となります。最低必要なのは温度計、 クライオポンプへのN2パージ用バルブとクライオからのガス排出用バルブ、クライオ内の大気圧確認器そして排気ダクトへの希釈用N2導入バルブです。
停電後再生が必要か否かはクライオポンプ2段温度が20Kを超えているかどうかで判断下さい。20Kを超えている場合は再生を実施, 以下の場合はそのまま再起動して下さい。
可燃性ガスを溜めこんだクライオポンプを油回転ポンプで排気するときは、クライオポンプ内の可燃性ガスを少量づつ排気し、さらに排気ダクトには窒素ガスなどの不活性ガスを導入してダクト内の可燃性ガスの濃度が燃焼範囲以下になるようにしてください。(図3:B部より不活性ガス導入)
クライオポンプで大量の酸素を排気し、再生時にクライオポンプ内の酸素濃度が20%以上になる場合、この状態で油回転ポンプで排気すると油回転ポンプの油の燃焼または爆発の危険があります。クライオポンプと油回転ポンプの間の粗引き配管に窒素ガスなどの不活性ガスを導入し,酸素濃度が20%以下になるようにして下さい。 (図3:A部より不活性ガス導入)
クライオポンプで可燃性ガスと空気または酸素を同時に排気する場合、クライオポンプを停止し、可燃性ガスが気体に戻っても濃度が燃焼範囲に入らないように可燃性ガスの排気時間を決めて、再生を行ってください。安全のために排気ダクトに窒素ガスなどの不活性ガスを導入して下さい。
図1:酸素/可燃性ガスの希釈方法(2)