Technology
ありそうでなかった"真空ポンプメーカーの真空デシケーター"開発ストーリー
デシケーターは、湿気を嫌うものを乾燥状態で保存するための容器で、より乾燥した状態を得るために、真空ポンプと組み合わせて使えるものがあります。これを真空デシケーターと呼びます。真空デシケーターは容易に真空状態が得られるので、保存目的だけではなく、実験や研究、開発などにもよく使われます。
アルバック機工の真空デシケーターは、見た目こそ他の製品と変わりませんが、実は他に類を見ない特別性。特に実験や開発など、特殊な環境でご評価いただいていますが、この製品の開発にはこだわりのストーリーがありました。
アメリカのお客さまからのご相談で生まれた特別性の製品も、市場にはより安価で簡易的なデシケーターがあふれています。しかし、だからこそ、他とはコンセプトが全く異なる「真空ポンプメーカーが作った真空デシケーター」でお客さまの「これが欲しかった」に繋がると信じていました。
まったく新しいコンセプトの真空デシケーターを世に送り出した、株式会社アルバック規格品事業部東日本営業部2課担当課長の徳永氏にその開発ストーリーを聞きました。
目次
- アメリカ発想!?お客さまのご相談から生まれた真空デシケーター
- 真空デシケーターの常識を覆す、試練
- ひろがる真空デシケーター活躍の出番
- 新コンセプトのデシケーターを生み出した開発チームとは
- 他とは違う!アルバック機工の真空デシケーター4つの"こだわり"
1. アメリカ発想!?お客さまのご相談から生まれた真空デシケーター
実はこの製品は、お客さまの意見から発案されました。ある営業と開発の担当者が、アメリカのお客さまのところを訪問した際、自作のデシケーターの性能が良くないので、「こんな物があったら、現場で使いたいのだけれど作ってもらえないだろうか」と言われたそうです。
お客さまが求めていらしたのは、小型で内部観察しやすく、拡張性を持ったデシケーター。
真空ポンプ屋にとっては、言わば単なる容器です。開発部門がすぐに図面を引いて試作品を作ってくれました。それをお客さまに見てもらい、評価していただいたのが商品開発のきっかけです。
2. 真空デシケーターの常識を覆す、試練
よくある話なのですが、そのアメリカのお客さまは、最初に言っていたほど、たくさんは買ってはくれませんでした。もちろん、社内ではそのお客さまのためだけに製品化するのか、それとも横展開を図って量産化を進めるか、という議論になりました。
まずは、アメリカのお客さまと同じ仕様のデシケーターにどの程度の市場ニーズがあるのか、国内外を含めて調査することになり、当時市場調査を担当していた私がとりまとめをすることになりました。これが、私がこのデシケーターの販売に関わったきっかけです。この時点では、まさか販売までに、こんなに苦労することになるとは思っていませんでした。
というのも、国内の調査の結果はイマイチでした。せいぜい数十台のニーズしか見出せません。こんなに高いデシケーターは売れないと言うのが多くの意見でした。
開発担当者が、会議で市場調査の結果を報告したところ、「こんな数では量産化はできない」「やる気があるのか」と、なかなか理解を得られません。
次の会議までに、開発部門と営業部門が協力して販売戦略を立てました。見込台数を膨らませて、改めて会議で報告したのですが、今度は、「数字に根拠がない」「戦略に具体性がない」「本当に売れるのか」と、ますます状況は悪化するばかり。
会議では、何ヵ月もこんなことが繰り返されました。
余談ですが、会議の後に「ところでデシケーターって何?」と開発部門担当者にこっそり聞いてきた人もいたようです。開いた口が塞がらない、というのが本音ではありますが、技術的なことを知らない人に利点を説明して、わかってもらうというのは大変なことなのかもしれません。
特に、見た目が同じでも他社製品とは全くコンセプトが異なるデシケーターともなれば、なおさらです。
3. ひろがる真空デシケーター活躍の出番
正直言ってこのデシケーターに特別な思い入れがあったわけではありません。しかし、これまでアメリカのお客さまに買ってもらうためにがんばってきた営業担当者や、私と一緒に会議で散々責められてきた開発部門や営業部門のことを考えると、私は、こだわり抜きたかった。
会議を繰り返す中で、何とか許可が下りた数台の試作品を利用して、営業部門でプロモーションを開始しました。
まさに、小さな小さな積み重ねです。
このデシケーターは、汎用品のように全ての方に相応した仕様ではありませんから、まずは興味がありそうなお客さまに使ってもらって、気に入ったら買ってもらうということもしました。
真空展や理化学の展示会に出品して多くの方に見てもらいました。出品するときは、真空ポンプや真空計といった、他の製品と組み合わせて展示する工夫もしました。
アルバックのお祭りでは、アイキャッチとして受付に複数台並べてもらいました。
休日には、科学館で開催された理科実験のイベントにも参加して、デシケーターを使って子どもたちに真空実験を披露したこともありました。このイベントの経験を活かして、自分たちで真空実験の動画を制作してYou Tubeにアップしました。現在までに7本の動画をアップしたのですが、コンスタントに一日平均60回は再生されています。
こんな地道な活動の甲斐もあって、社内での真空デシケーターの存在感が徐々に増してきたように思います。この頃には会議で、「売れるの?売れないの?」と言う人もいなくなっていました。この波に乗って、販売店にも協力をお願いして販売予定の数量を確保し、カタログやホームページへの掲載計画も立案して、量産化の承認を得るまでに至りました。
やっと製品化が叶った瞬間でした。
4. 新コンセプトのデシケーターを生み出した開発チームとは
形になってから、販売に至るまでに時間がかかってしまったのは、特定顧客の要求からスタートしてしまったこと、マーケティングの不足や未熟な販売戦略など、強みより弱みばかりが思い出されます。
しかし、会議で逆境に追いつめられるほど、売ろうとする営業部門や開発部門のチームワークは高まっていったように思います。そのチームワークと、必要としているお客さまが必ずいるという確信は、私たちの強みだったのかもしれません。
せっかく今までの世の中にない特徴を持った、新しいコンセプトの製品を生み出したのだから、なんとか商品化して、お客さまへ届けて活躍して欲しい思いでいっぱいでした。
チームワークといえば、会議のたびに製品企画や販売戦略の資料を作り直していましたが、資料作りを手伝ってくれた技術者がいました。毎回責められる開発部門と営業部門を見て、同情して販売先を探してきてくれた営業担当者がいました。休日返上でイベントに協力してくれる人、いっしょに動画を撮って編集してくれる人、仲間の協力で少しずつですが、社内で認められ、製品化につながっていったのだと思います。
5. 他とは違う!アルバック機工の真空デシケーター4つの"こだわり"
デシケーターの多くは、樹脂の成型を得意とする企業が製造していて、主に理化学の市場で販売されています。一方、当社のデシケーターは、真空ポンプ屋が作った真空デシケーターです。当然その性能と利便性には自信があります。
こだわり1. 桁違いの高耐性
理化学の市場で販売されているデシケーターは、低過ぎる圧力には耐えられません。安価なものはすぐに割れてしまいますが、当社のデシケーターはまず割れることはありません。他のデシケーターより、一桁低い圧力まで保証しています。この特徴が評価されて、デバイスメーカーが購入してくれました。
こだわり2. ユーザーフレンドリーでカスタマイズ自由自在
他のデシケーターは、理化学市場に合わせて、真空ポンプとの接続口が外径9ミリに統一されています。交換もできません。それに比べて当社のデシケーターは、豊富なオプションで、様々な口径のホースはもちろんのこと、真空専用配管や、真空計への接続も可能です。また熱電対を導入して内部の温度を測定したり、電流導入したりすることも可能です。この特徴が評価されて、宇宙研究の機関が真空中モータ動作の試験として購入してくれました。
こだわり3. カバーレス!?のようなクリアなカバー
内部の見やすさもこのデシケーターの特徴です。科学館で開催された理科実験のイベントでも、You Tubeの動画でも発揮されているのですが、透明なカバーには、継ぎ目もリブもないので、真空の中で起こる現象や中にある物の変化を観察するのに適しています。この特徴が評価されて、大学が教育用の実験装置として購入してくれました。
こだわり4. 実はとてもリーズナブル
お客さまに試作品を紹介した時、よく指摘されたのが値段の高さです。見た目の印象は、もう少し安く感じるようです。当社のデシケーターは、安価なデシケーターよりは高く、高級なデシケーターよりは安いという、中間的な価格ですが、その性能と利便性から考えれば、かなりリーズナブルな価格です。単なる保存用ではなく、実験や研究、開発など、高いレベルでデシケーターを使いたいお客さまには、やはり良い!と、満足いただける製品だと思います。
おわりに
アルバックグループは、互いに協力・連携し、真空技術及びその周辺技術を総合利用することにより、産業と科学の発展に貢献することを目指しています。
この基本理念のもと、「このような物があったら良いな」といただいたお客さまのご相談に真摯に向き合い、同じようなお悩みを抱えていらっしゃるお客さまへ届けたい思いから、真空デシケーターが生まれました。
汎用品の真空デシケーターでは達成できないお客さまのゴールに、アルバック機工の真空デシケーターがお手伝いできるかもしれません。
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