1.はじめに
近年、高真空領域での圧力計測に使われる熱陰極電離真空計において指示値の低下やふらつき、冷陰極電離真空計では放電しにくいという問題が増えてきた。
指示値の低下やふらつきが発生すると、ユーザーは測定子の寿命と判断し、測定子を交換することになる。
この問題は「真空とその標準に関するアンケート」結果報告1)にあるように、正確で安定な真空計が欲しいという声が増えているという結果に表れている。
Technology
本稿では、測定子自体の安定性を向上させ、正確で安定な真空計が欲しいという声に応えた電離真空計について報告する。
真空装置の真空チャンバはステンレスなどの金属材料で製作されるが、加工時に用いる切削油が環境負荷低減のため近年油性切削油から水溶性切削油に変わってきた。 1995年末にオゾン層破壊物質である有害なフロンの生産は全廃され、加工後の洗浄に使用するフロン系洗浄剤は環境負荷が低い水系または炭化水素系のものに変わってきた。
その頃からチャンバに切削油、洗浄剤の残渣が見られるようになり、装置立上直後にその残渣からの放出ガスによって、冷陰極およびB-A電離真空計の指示値の低下を引き起こすことが多くなってきた。
また、Figure 1 のように、測定子の接続フランジに使われるOリング部分に真空グリスを塗布したり、フッ素ゴムではなく、ニトリルゴム製のOリングを使用したりすることによって、指示値の低下を発生させている例も見受けられるようになった。
さらに、真空プロセスを利用して生産されるデバイスには、フィルム、アクリル基板、有機ELなど新しい材料が使用されるようになった。それらの材料からの放出ガスにより、指示値の低下が発生するようになってきた。
冷陰極電離真空計は放電現象を利用したものであり、熱陰極電離真空計よりも、排気作用が大きいため、上述のような環境では電極に有機系の物質が堆積しやすい。
そのため放電が不安定になり、指示値の不安定および放電停止の問題が発生する 2)。
現在利用されている熱陰極電離真空計は、B-A電離真空計がほとんどである。B-A電離真空計は、細い金属線を使用したイオンコレクタと呼ばれる電極にてイオンを収集している。
測定する雰囲気中に存在する有機系の物質がイオンコレクタに吸着すると、脱離のための活性化エネルギーが大きく、平均滞在時間が長いために堆積し始める。
堆積した有機系の物質は絶縁体となり、イオンを収集することができなくなるので、指示値の低下を招くことになる 3)。
Figure 3は真空乾燥炉で使用した場合の写真である。
乾燥ワークから放出された炭化物がイオンコレクタに吸着しているのがわかる。
また,ピラニ真空計などと組み合わせることによって、より広い圧力範囲を連続的に測定可能な複合真空計が市販されるようになってきた。
この複合真空計はフィラメントおよび高電圧をピラニ真空計などの指示値によって自動で制御するために、測定上限に近い圧力でも測定が継続され、汚染が進んでしまうという問題もある。
指示値が低下した場合、装置は停止をする必要があり、また、測定子を交換するために、チャンバを大気にしなければならないので、生産性が低下してしまう。
また真空計の測定子はそのまま廃棄されるが、測定子には、タングステン、モリブデン、イリジウム、白金などのレアメタルが使用されている。
これらレアメタルは電子機器に多く必要とされ年々使用量が増加しているが、採掘や製錬に伴って、水質汚濁や土壌汚染といった深刻な公害を引き起こす可能性がある。
また、レアメタルは地域的に偏在しており、価格が不安定という問題もある。
したがって,測定子の交換頻度が多くなると、真空装置の生産性の低下や維持費の増加のみならず、環境にも悪影響を与えることになる。
また、複合真空計の場合、問題のない真空計部分も交換する必要があり、さらに維持費が増加してしまう。
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文 献
1) H. Yoshida: J. Vac. Soc. Jpn., 54(2011) 483.
2) H. Akimichi: J. Vac. Soc. Jpn., 56(2013)220.
3) Japan patent JP WO2006/121173A1.
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5) M. Hirata, M. Ono, Y. Toda, K. Nakayama: Shinku, 25 (1982)372.
6) Japan patent JP5827532.
7) WO patent WO2016/139894A1.
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9) H. Yoshida: J. Vac. Soc. Jpn., 58(2015)155.
10) H. Yoshida: J. Vac. Soc. Jpn., 59(2016)237.
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