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液体窒素ジェネレーター「EMP シリーズ」の紹介と新製品「UMP-40W」について
1. はじめに
液体窒素は極低温の寒剤として幅広く使用されている.
一般的に使用される理由としては,原料の窒素ガスが大気中の80%を占めているため大量に製造でき入手性が良く,不活性ガスであり,熱容量が大きく保持時間を長くできるということがあげられる.
医療用途として,MRI の液体ヘリウムのシールド用,低温治療や低温美容,理化学用途としてもNMR の液体ヘリウムのシールド用やガスクロ等の成分分析の不準物除去,農業畜産業用途としては,精子卵子の凍結保存等,今や我々の生活にとってはなくてはならない存在である.また,液体窒素の価格も大半は輸送コストであり,大量に買えば輸送コストの削減により牛乳より安い値段で購入できるようになっている.
その反面,少量の液体窒素は,輸送コスト単価が上がり,高価格での購入となってしまう.特に地方の交通の便の悪いところでは,輸送コスト上昇の傾向が顕著になる.
少量の液体窒素を使用するユーザーに,使用する場所の近くで製造し提供する目的で製品化したのが,液体窒素ジェネレーターである.
本装置は,大気中の空気を原料として,電気と水のみで純度99%以上の液体窒素を製造できる装置である.
最近,40 L/day 以上の液化量を有する「UMP-40W」を新たに製作販売したので,その紹介も含めて,液体窒素ジェネレーターについて報告する.
2. 液体窒素ジェネレーターの概要
液体窒素ジェネレーターはTable 1 に示すラインアップとなっている.
本装置は,岩谷瓦斯株式会社より技術継承された装置を,より使いやすくした装置である.
液体窒素ジェネレーターのフローシートをFigure 1に示す.
液体窒素ジェネレーターは,窒素ガスを液化するための液体窒素ジェネレーター本体と,大気から窒素ガスを分離,抽出する窒素ガス発生装置(発生方式:Pressure Swing Adsorption 以下PSA)で構成される.
液体窒素ジェネレーター本体は,窒素ガスを液化するための冷凍機システム,液体窒素を貯蔵するための真空断熱容器,液面計,安全装置,および制御システムが内蔵されている.
オプション機能として,顧客が準備した容器の液体窒素の液面高さに応じ自動で供給する機能を有している.この自動供給機能により,顧客は窒素補充の手間を省くことができる.
液体窒素の製造能力は主として冷凍機の冷凍能力で決まり,適切な窒素ガス供給能力のPSA および適切な容量の貯蔵容器と組み合わせることで,1 日当たりの使用量が少量の場合から大量の場合までTable 1 のようなラインナップで対応することができる.
Table 1 Lineup of the liquid nitrogen generator
EMP-07 (A/W) | EMP-14 (A/W) | EMP-20W | |
---|---|---|---|
LN2 Production Capacity (60Hz/50Hz) | 8L/day / 6L/day | 14L/day / 14L/day | 20L/day / 19L/day |
LN2 Storage Capacity | 40L | 40L | 80L |
Dimension (WxDxH) | 600 x 750 x 1628 mm | 600 x 750 x 1688 mm | 930 x 740 x 1661mm |
Weight | Approx. 220kg | Approx. 235kg | Approx. 340kg |
Power Supply |
100VAC 1 Phase1.2/1.4kW(50/60Hz) |
200VAC 3 Phase 1.7/2.0kW(50/60Hz) |
200VAC 3 Phase 3.3/4.1kW(50/60Hz) |
Recommended Breaker Capacity | 20A | 20A | 30A |
Compressor Cooling System | A: Air W:Water | A: Air W:Water | Water |
Figure 1 Flow sheet of the liquid nitrogen generator.
3. 設計上考慮すべき要素
液体窒素ジェネレーターを設計する上で考慮すべき要素として,液化量に影響をおよぼす要因,供給窒素ガス
の不純物濃度の影響(水分量とAr ガス量)について説明する.
3-1. 液化量に影響をおよばす要因
液化量の理論上の最も簡略的な考え方は,窒素ガスの室温より77.3 K までの顕熱hg(J/g)と液化に必要な潜熱lv (J/g)を足した熱量が,冷凍機ユニットの77.3 K における理想的な冷凍能力Q(W)と釣り合うとして計算する.実際には外部からの入熱α(W)と真空断熱容器の蒸発量β(L/day)およびq(W)があるため,それらを考慮すると液化量A(L/day)は,
ρ(g/L):液体窒素の密度
と表すことができる.
α(入熱)の要因としては以下のことが考えられる.
1)トップフランジを介した室温部からの輻射熱
2)液相に挿入される配管類からの固体熱伝導 1)の輻射は,冷凍機運転時,真空断熱容器のネックチューブより上の温度は常に77.3 K 付近となるため,影響は少ない.2)の熱伝導は,強度を損なわない範囲で熱伝導が十分小さくなるよう,配管の材質,径,肉厚を決定している.
一方β(蒸発量)の要因としては
3)真空断熱容器のネックチューブの熱伝導がある.
β は容器固有の特性であるが,容器は市場流通品を購入しているため,蒸発量を実測し基準を満たすものを選別している.
q(W)は,冷凍機ステージの温度と凝縮表面77.3 Kの温度差に起因するもので,冷凍機の特性で温度が下がると冷凍能力が下がるため発生する,要因として
1)液体窒素層を介在することにより生じる温度勾配
2) パネルの面積,形状に依存してパネルの材質,厚さ等に依存する.
3) 凝縮面積不足による過冷却状態で極端に凝縮面が小さいと起こる.
3-2. 冷凍能力と液化量の関係
冷凍機の冷凍能力と液化量の関係について考察する.通常,冷凍機の冷凍能力は,輻射入熱を遮断するため,遮蔽シールドで覆い,真空断熱中の理想的な環境下で測定される.ところが本装置の冷凍機は,窒素ガスが充満した空間中に置かれるため,有効な冷凍能力は理想的な環境下でのそれとは異なる.例えば,容器に入ったガスが液化に至らない低温状態で容器から出ていくと,無駄に冷やしたことになるので,冷凍能力のロスとなる.こうした冷凍能力のロスを最小限に抑え,液化に使用する冷凍能力を最大限確保するため,冷凍機とネックチューブの間の空間に断熱材を配置し,ネックチューブ内およびシリンダー外壁空間のガス対流を防いでいる.(Figure 2 参照)
断熱材は,発泡樹脂でできており,以下の特徴がある.
①熱伝導が悪い.
②ガスは流れる.
x 方向の温度勾配では,ネックチューブの温度勾配がシリンダーの温度勾配に影響しないように断熱されている.それにより,冷凍機のシリンダーに沿った温度勾配が断熱材内面に生じ,窒素ガスの水平方向の温度勾配を小さくしている.
よって冷凍機により冷却された窒素ガスは,温度の低下で密度が上昇し重くなり下方に移動し,y 方向の温度勾配は,シリンダーの冷却能力を損なわない形で,冷却することができる.これにより,窒素ガスの顕熱を,冷却端の能力だけでなく,シリンダーの温度勾配や,ネックチューブまでも使い,①の式で示した液化量をより効率的に液化することを可能にしている.
Figure 2 Temperature gradient caused by thermal insulation
3-3. 供給ガスの露点
現在,PSA からの露点は-60℃以下と規定しており,その仕様で製作している.水は77.3 K では当然氷であり,冷凍機運転時には,シリンダーの-60℃近傍に氷として付着する.冷凍機は液を取り出す際や容器が満杯となった時は停止するため,付着した氷は部分的に溶融し下方に移動する.その時に氷は下に移動する.冷凍機の起動- 停止が繰り返されることで最終的には容器の底に氷が溜まることになる.露点が高すぎる場合,氷が下に落ちず,断熱材全体に氷塊が付着して成長する.氷塊は液面計の誤動作を引き起こしたり,メンテナンス時に冷凍機が外れなくなるなどの,トラブルを発生させる.
3-4. 大気中のAr ガス
大気中に約1%あるAr ガスはPSA で除去されることなく,真空断熱容器の方に入ってくる.Ar ガスは沸点87.3 K,三重点83.8 K で77.3 K では固体として冷却端表面に固体層を作り,窒素ガスと冷却面の間の熱交換効率を悪くし,液化量の減少につながる場合がある.ただしAr は液体窒素取り出し時等冷凍機が運転停止したときに完全に蒸発するため,液化量は元に戻る.
4. 各構成機器について
4-1. 窒素ガス発生装置(PSA)
PSA は,空気圧縮機,2 機の吸着筒,バッファタンクおよび制御機器より構成される.空気圧縮機で0.8 MPa程度まで圧縮された空気は,空冷の熱交換器により冷却され,水分を除去した後,片方の吸着筒に導入される.吸着材には活性炭が含まれており,吸着材の中を通った圧縮空気は,酸素ガス,炭酸ガス,水分等が吸着され,高純度の窒素ガスとなり吸着筒の出口側からバッファタンクに貯蔵される.(この間,もう片方の吸着筒は準備状態である)
吸着が飽和に達すると,吸着筒が切り替わり,他方の吸着筒で吸着が開始されると同時に,それまで酸素ガス等を吸着していた吸着塔は大気圧に開放され,容易に酸素ガス等が脱着され,次の吸着に備える.2 筒の切り替えと,バッファタンクにより,高純度の窒素ガスを一定流量で安定して供給できる.
4-2. 冷凍機ユニット
後述するように,日本国内では高圧ガス保安法の適用となる.そのため冷凍機ユニットの窒素ガスとの接触部は高圧ガスの受圧部として,法に準拠した施工が必要となる.溶接構造にすると,法に定められた溶接構造を満たすことができないため,「EMP シリーズ」は受圧部を一体加工にて対応している.
4-3. 貯蔵容器
貯蔵容器は,高圧ガス保安法に準拠したものを,購入している.
断熱真空構造は,市販されているSUS 容器と同等であるが,冷凍機や液面計等の導入が必要なため,トップフランジの開口径は大きくなっている.
4-4. 液面計
液面計は静電容量型液面計を採用している.構造は,中心に電極棒,その周りにパイプ状のアース電極があり,液体窒素と窒素ガスの誘電率の違いによる静電容量の変化を測定することにより,液面の高さを測定することができる.電圧出力であるため,連続的に液面を測定することが可能である.ただし,氷等の異物の混入により,すぐに正確な測定ができなくなるため,特に氷の混入には,注意を払う必要がある.
5. 高圧ガス保安法への対応
本装置は,日本国内では経済産業省の指導により,凝縮器として扱われる.凝縮器として扱う場合には一般高圧ガス設備と特定設備にわかれ,以下の式により区別される.
設計圧力(MPa)×容器容量(m3)=0.004
0.004 より大きくなると,特定設備となり,各機器の材料確認試験より始まり,溶接施工確認,溶接試験,浸透探傷試験も課せられる.これらの試験は冷凍機のシリンダーにも適用されるため,事実上冷凍機の製作が不可能になる.
このため,本装置は一般高圧ガス設備となるよう,上式で0.004 以下になる設計圧力とし,さらに安全弁を設置して,特定設備にならないようにしている.
実務の話であるが,実際の届け出先は,各都道府県であり,当然法の解釈によって,各機器の設置条件やテスト条件が多少異なる.
6. 「UMP-40W」について
最後になったが,最近新たに製品化した「UMP-40W」について,説明する.外観をFigure 3 に示す.
「UMP-40W」は,「EMP シリーズ」(岩谷瓦斯の技術継承品)をベースとし,冷凍機,圧縮機,制御方法等,
アルバック・クライオの製品および技術を盛り込んだ液体窒素ジェネレーターである.液化能力40 L/day という,液体窒素ジェネレーター最大の能力を有しており,海外他社メーカーと比較しても,十分対抗できる液化能力を持っている.
冷凍機は,ギフォードマクマホンタイプ(RMS150T)であり冷凍能力は165 W/77 K の高出力である.ただし,受圧部であるシリンダー部は溶接構造であり,高圧ガス保安法対応機種でないため,海外販売限定としている点が「EMP シリーズ」と異なる.
日本での販売はできないが,東南アジア等を中心とした液体窒素が手に入りにくい地域がターゲットになると考えている.
6-1. 液化量について
1 kg 当たりの窒素の顕熱h300K-77K と,潜熱lv はそれぞれ
h300K-77K =233.8 J/kg
lv =199.1 J/kg
で表せる1).そのため,1 g 当たりの顕熱と潜熱の和Qは,
h300K-77K+lv=432.9 J/kg
本冷凍機の冷凍能力は165 W(J/sec),液体窒素の密度ρ =804.2 g/L を用いると,入熱,容器の蒸発を考えない理想的な液化量は,
SPEC である液化量A=40(L/day)は計算上満たしている.
Figure 3 に今回製作した「UMP-40W」の液化量の実測値について示す.
Figure 4 に示すように,実測でも液化量は40 L/dayを十分に超えている.これは,シリンダーと断熱材の温度勾配により,顕熱を有効に冷却できている効果である.なお1 日当たりの液化量は,容器入口のガス流量から容器出口のガス流量を引き,その差から換算したものである.
Figure 3 Overview of the "UMP-40W" and Nitrogen gas generator (GN-30i)
Figure 4 Liquid N2 Generation rate of the "UMP-40W".
6-2. 液面高さと液化量の関係
Figure 4 でもわかるように,液面高さが高くなると(時間が経過するとともに)液化量は徐々に減っている.これはAr ガスの影響であると思われるが,冷凍機のシリンダー長さが「EMP シリーズ」の冷凍機より短いため,温度勾配の影響が出ていることも考えられる.いずれにしても,今後製作実績を重ねながら,検証していきたい.
7. おわりに
液体窒素ジェネレーターは,アジアを中心に,液体窒素の入手困難な地域で高い潜在的需要があり,経済成長に伴い,販売数が急伸する可能性があると考えている.
今回出荷した「UMP-40W」は手動の取り出しのみだが,今後は超伝導磁石の予冷など,自動供給可能なタイプも開発を進めていきたいと考えている.
今後の市場拡大に期待している.
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