Technology
スマートフォン対応ピラニ真空計SWU10-U
2020年度一般社団法人日本真空工業会表彰 イノベーション賞
(『真空ジャーナル』2022年1月 179号掲載 )
一般社団法人日本真空工業会『真空ジャーナル』179号、2022年1月発行の 42頁~43頁に「2020年度一般社団法人日本真空工業会表彰 イノベーション賞」記事としてスマートフォン対応ピラニ真空計SWU10-Uが掲載されましたのでご紹介いたします。
1.開発製品の概要
『もっと身近に簡単に使用できる真空計が欲しい』との市場の声を基に、スマートフォンに対応したピラニ真空計SWU10-U(図1)を開発いたしました。本製品は、真空技術という専門知識を持ち合わせていない方にも手軽に圧力測定が可能となるように、スマートフォン(またはPC)を用い 『UL-MOBI』(図2)というアプリケーションソフトウェアでグラフ表示を実現した製品になります。
SWU10-UはスマートフォンやPCにUSBケーブルでつなぐだけで直接圧力表示が可能となり、その経過時間変化の圧力データを保存可能なことから、真空装置の保守でもご利用いただけます。
図1 大気圧ピラニ真空計SWU10-U | 図2 UL-MOBIスマートフォン版 |
2.開発の狙い
ピラニ真空計は半導体製造装置、電子部品製造装置、フラットパネルディスプレイ製造装置のハイテク分野はもとより、真空ポンプのメンテナンスなども含む低真空用途のありとあらゆる産業に関わる最も汎用性の高い真空計です。そのためにも、本真空計はより多くのお客様に汎用的にご使用いただけるよう、10-2Pa 台から大気圧までの圧力を測定可能な真空計としました。
これまでのピラニ真空計は、動作させるための電源(一般的にはAC100Vなど)や、圧力指示専用のディスプレイもしくは電圧計やPLCなどが必要で、容易に持ち運べるような製品ではありません。また圧力データを電圧でロギングする際は、電圧から圧力への換算する必要があり、また個々の真空計で換算式が異なるため専門知識が必要であり"しきい"の高い製品でした。そこで、本製品を開発することで少しでも身近な製品を誕生させたいという思いで開発を行いました。
3.苦労した点
製品の開発当初は、BluetoothやWi-Fi(無線LAN)などの無線接続の検討から入りました。しかし、ピラニ真空計は熱伝導真空計であるがため、フィラメント加熱の必要があり、数ワットの電力を消費します。長時間の動作を継続させるためには、ピラニ真空計の筐体よりも大きなバッテリを搭載する必要があり、またお客様の使用環境で無線設備を使用することが許されない場合も多くあり、有線での接続とすることとしました。この有線にすることによる思わぬメリットも生まれました。スマートフォンの内蔵バッテリを利用できるという点です。この有線化で真空計への電源供給と同時にデータの送受信も可能となりました。このような経緯で簡便かつ使い勝手の良いスマートフォン対応ピラニ真空計が誕生いたしました。
この様に、スマートフォンに接続して使用することが前提のため、有限の電力を有効に利用するために消費電力を低減させる必要がありました。そこで、本真空計ではCPU 内部で補正演算処理を担うこととし、アナログ回路を簡素化することで従来のピラニ真空計より25%の低消費電力と小型化を実現できました。
また、本真空計から採用しているスマートフォンやPCで操作が可能なアプリケーションソフトウェア『UL-MOBI』は国内真空業界では初めてGoogle Playによる無償配布を行い、より真空計を身近なものと感じていただけるような取り組みを行っています。また、スマートフォンを利用するにあたり、120種類以上のスマートフォンを用いて実際に『UL-MOBI』をインストールし、動作確認と操作感の確認を行いました。
『UL-MOBI』のユーザーインターフェイスは弊社のヘリウムリークディテクタHELIOTシリーズの工業デザインを元に真空計向けにアレンジを行い、従来からの弊社のお客様でも違和感なくご使用していただけるように設計を行っております。後に商品化したG-TRANシリーズ・マルチイオンゲージのSH200/ST200においても同じ『UL-MOBI』で操作することを可能とし、使い勝手の向上に努め、今後もシリーズ化していきたいと考えております。
要素技術の観点でもアルバックらしさを出すことにチャレンジしました。これまでのピラニ真空計は、温度補償はアナログ回路で行っていましたが、今回は中央演算装置と測定子内部の温度センサーを用いて、一定時間経過後に到達する外部温度を推測し、フィラメントに印加した電力による発熱分を演算に加味して圧力を指示させる方式としました。本方式を用いることにより幅広い温度環境においても誤差を最小限に留めることができました。
さらに、弊社の従来のピラニ真空計のアナログ回路とは異なり、生産工程での手作業のアナログ調整による電圧補正を一切排除する設計を行い、測定子の製造バラツキによらず、かつ生産工数を減らしたうえで、高い品質の真空計を提供できるようになりました。
回路そのものは非常に単純ですが、演算手法を開発するまでに、基礎実験からソフトウェア技術者と共に3年ほどの時間をかけました。回路設計技術者とソフトウェア技術者がこれまで以上に密に連携を図ることにより、従来の設計手法にとらわれない開発ができたと考えています。
また、頑丈さの面でもひと工夫をしています。真空業界以外のお客様にも気軽にご使用いただけるよう、耐振動性の高いULVAC独自のセンサー構造を採用しています。同時に回路部分の保護のため、本体周囲にはシリコーンゴムを用いた保護カバーを用いることで、更なる衝撃への耐性も強化しました。同時に、手になじむ形状と触感にすることで、お客様の身近にいつも持ち歩いていただけるような製品になるように配慮しました。
4.メンバーの紹介
宮下 剛(計測機器部TE 課 課長)
西巻 武輝(先行技術開発部 制御開発課 主事)
照井 敬晶(先行技術開発部 制御開発課 主任)
佐藤 貴伸(計測機器部 TE 課 主管 博士(工学))
桑谷 淳(計測機器部 AE 課 主管)
福原 万沙洋(品質管理部 主管)
上記の開発従事者6名を中心に、こんな愉快なメンバーで商品化にこぎつけることができました !
5.結語
この度は、日本真空工業会JVIAにおいて、大変栄えあるイノベーション賞を戴き、ご尽力いただいた関係者の皆様、サプライヤの皆様、開発コンセプトを一緒に考えてくれた仲間、諸事情で退社された谷さんへ感謝いたします。
SWU10-Uは、これまで真空業界にはなかった新しいコンセプトの真空計です。真空業界に関わりの少なかった産業界においても新たな採用をしていただけるように、真空計のみならず『ULMOBI』のユーザビリティの向上を図ってまいります。
今後も益々身近に感じられる使い勝手の良い高精度な真空計の開発を行い、真空機器業界へ貢献していきたいと考えています。
是非とも『UL-MOBI』で検索を !
・学会発表:2019年10月29日 2019年日本表面真空学会学術講演会 「大気圧ピラニ真空計の温度補償法」2P63
・雑誌掲載:真空ジャーナル、2020年1月 171号 「SWU10-U 特集記事」
・報道発表:2019年9月6日 日刊工業新聞 「VACUUM2019真空展/真空機器の手軽さ追求 小型軽量、スマホが表示器」
転載 : 一般社団法人日本真空工業会『真空ジャーナル』179号、2022年1月 42頁~43頁
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