SWU10-U 特集記事(真空ジャーナル2020年1月 171号掲載)|Technology|ソリューション|ULVAC SHOWCASE

Technology

真空計測をもっと手軽に!

スマ-トフォンと接続、

電源不要なピラニ真空計「SWU10-U」

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スマートフォン対応
ピラニ真空計「SWU10-U (NW16仕様)」

真空技術を活用する企業や大学、研究機関などにとって欠かせないのが真空チャンバ内の真空の度合いを測定する真空計である。
だが、これまでの真空計は専用の電源やディスプレイが必要であった。そのため「もっと手軽に真空計測を行いたい」、
「必要な時だけ真空計測ができればよい」、 「初期投資を抑えたい」といったユーザのニーズがあった。
真空装置のトップメーカの1社であるアルバックがこうした声に応えて、スマートフォンの活用というアイデアで開発し、
2019年10月末日にリリースしたのが今回のピラニ真空計「SWU10-U」である。
開発を担当したお二人に開発の経緯や新製品の特徴などをお聞きした。いざ、テクテクテイク。

(Interviewee)

桑谷 淳(くわたに•あつし)
規格品事業部計測機器部 AE課1係主管 アプリケーションエンジニア (真空計/成膜コントローラ担当)

吉澤 秀樹(よしざわ•ひでき)
規格品事業部計測機器部 AE課課長 アプリケーションエンジニア (プロセスガスモニタ/RGA担当)

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♦大別して6事業部門、FPD • PV製造装置が最大規模♦

Q アルバックの主な事業分野を教えてください。

桑谷 事業規模の順ですと、まずはFPDおよびPV (太陽光発電)製造装置です。
FPDの中でも液晶ディスプレイ製造用スパッタリング装置では世界トップのシェアを誇っています。太陽電池も40年以上前から開発し、シリコン結晶系や化合物系など様々な太陽電池に対応する装置を提供しています。
2番目が半導体および電子部品製造装置です。あらゆるものがインターネットにつながるIoT (インターネット•オブ•シングス)、ビッグデータ、人工知能、自動運転が加速度的に進化する自動車産業などの技術革新を支える不揮発性メモリ、3D-IC (積層I型3次元IC)、通信デバイス、センサ、オプトデバイスなど様々な用途開発、製品開発用の装置の開発•生産用装置の研究開発と生産革新を続けています。
3番目がコンポーネント。真空ポンプをはじめ、これからお話しする真空計、真空中のガス種を測定するプロセスガスモニタ、ヘリウムリークディテクタなど真空技術に必要なコンポーネントを手がけています。
4番目は一般産業用装置。これは創業からの事業分野で鉄鋼.金属、自動車、家電などの業界に時代にフィットした装置や技術を提供しております。
5番目が材料。6番目が分析装置•制御装置•マスクブランクスとなっています。

♦スマートフォンにつなぐだけで真空計測、データ保存♦

Qそれでは今日の本題に入りたいと思います。

桑谷 お話しするのは10月31日に販売開始したばかりの新製品のスマートフォン対応ピラニ真空計『SWU10-U』についてです。
ピラニ真空計はドイツの物理学者のピラニが発明した真空計で、0.1Pa〜大気圧程度が測定範囲です。これまでの一般的なピラニ真空計は真空計の本体に加えて表示器(ディスプレイ)が必要で、これらを専用のケーブルをつないで使います。場合により、それにACアダプターも含めて計4点で構成するという結構なシステムになっています。
それに対して、今回の真空計「SWU10-U」は非常にシンプルで、まったく違うイメージになります。最大の特徴は真空計をスマートフォンにつなぐだけで計測し、データを保存できる。これまで業界にまったくなかった新しい真空計になります。

Q要するにこれまでは外部電源を含めて4点必要だったのがシンプルになったということですか。

桑谷 そうです。弊社が提供するのは真空計だけで、あとはお客様がお持ちのスマートフォンだけ、接続は市販のUSBケーブルです。
専用電源(AC100V)は不要ということで、いままでとはまったく異なる構成です。

Q電源はどこから取るのですか。

桑谷 スマートフォン自身が電源です。計測した真空度のデータがスマートフォンの画面に出てきます。使い方はスマートフォンを主に考えていますが、使用環境でそれができないというお客様はパソコンと接続することも可能です。

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Q機能的にはいままでと変わらないのですか。

桑谷 リアルタイ厶の圧力表示、そして時系列でのトレンド表示もできます。また、あとでデータを参照したいというお客様のためにデータロギング機能もあります。
具体的には、画面上のスタート•ストップボタンを使用することにより、スマートフォンの内部メモリにデータを保存できます。
データもcsvファイルで保存するので、パソコンで加工したりすることもできます。対応するアプリケーションは、Google Playからダウンロードできます。
アプリケーションの名前はアルバック・モバイルの略で「UL-MOBI (アルモビ)」とさせていただいています。Androidの6以上でUSB Type-Cを搭載しているスマートフォンを条件にしていますが、最近のものはこの仕様を満たしているので大半のユーザをカバーできるかと思います。

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Qスマートフォンには保存できるデータ容量がありますが、かなりのデータが入ってくることになりませんか。

桑谷 昨今はスマートフォンに動画も保存される時代ですので、よほどの長時間でない限り容量がいっぱいになることはありません。
吉澤 データ量としては微々たるものですから大丈夫です。補足説明になりますが、スマートフォンが使えない環境の方もパソコンで使用可能なようにPC用のアプリも用意しました。基本的には同じやり方になっています。

Qスマートフォン側にはデータを表示させるためにあらかじめ必要なことはありますか。

吉澤 申し上げたアプリケーションソフトをインストールしないと使えませんが、Google Playにアクセスしていただければ、無償でダウンロードできるようになっています。

Qパソコンの場合も使い方は同じですか。

吉澤 パソコンの場合は私どものホー厶ページにアクセスしていただければ、ダウンロードメニューからダウンロードできます。

Qそうするとピラニ真空計とパソコンをつなぐということですか。

吉澤 そうですね。パソコンと真空計をつなぐという意味です。

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♦白金を使っているため腐食性ガスに強いのが特徴♦

Q今まで伺った以外の特徴はあるのですか。

桑谷 その他の特徴としては非常に軽量コンパクトです。保護カバーがついていて、最大で幅46mm、高さが80mmで、重さが85gしかない。
もちろん弊社のラインアップの中でも最も小さいピラニ真空計になります。あとは振動や衝撃に強いこと。弊社独特の構造を採用し、一般のピラニ真空計に比べてかなり高強度です。
弊社のイメージカラーのブルーの保護ラバーも採用して、比較的ラフに扱っていただいても問題ないように作られています。ポロッと落としたくらいではびくともしません。

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Qコンパクトで高強度ということですね。それでは肝心の真空計としての性能はいかがでしょうか。

桑谷 真空計の圧力範囲は、下は5X10-2Pa、上は1×105Pa(大気圧)まで測れますので、ピラニ真空計でいうと水準レベルを確保しています。
ドライポンプやロータリーポンプの領域はすべてカバーできます。

Q水準レベルというのはどういうことですか。

桑谷 ちょっと古いピラニ真空計だと測定できる範囲がかなり狭いのです。コンマ数パスカル、上が1×104Pa台しか測れないものもあります。
それに比べると今どきのピラニ真空計に求められる測定範囲をカバーしているということです。材質的な話ですが、フィラメントには白金を採用しています。
これはタングステンなどに比べると腐食に強いですね。手軽さを売りにしている製品ですが、真空計の性能までそのようなものだと誤解されてもいけませんので、性能も品質もトップレベルで作っているということを申し上げて置きたいです。

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Q耐食性のガスを流している状態でも測定できるから白金を使っているということですか。

吉澤 CVDやエッチングなど腐食性ガスの雰囲気で使う場合もありますので、一般論ですが白金はガスに強いです。ちなみに他社さんではタングステンなどをフィラメントに使っている場合が多く、白金を使っているのは弊社だけです。タングステンなどに比べると耐食性が強い。従来から弊社のピラニ真空計は白金を使わせていただいています。

♦豊富なフィッティングのラインアップ♦

Q最初にお聞きすればよかったのですが、ピラニ真空計の特徴を教えてください。

桑谷 真空度を測る上で一つの仕組み、一種類の真空計だけで低圧から高圧まですべてを測れる真空計はありません。圧力領域によって数種類の真空計が求められます。
ピラニ真空計は大気圧に一番近い領域を測る真空計です。中にフィラメントが入っていて、気体がフィラメントから奪う熱を測っているのです。

Qそれで圧力の度合いが測れるのですか。

桑谷 ガス分子の数によって奪う熱量が変わってきますから、それでどのくらい圧力が低いのかが測れるのです。次の特徴としましては豊富なフィッティングのラインアップです。
全7種類をそろえていますので、ほぼすベてのお客様に対応できると考えています。

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Qフィッティングのラインアップとはなんですか。

桑谷 銀色のロの部分です。ここが真空チャンバなり、真空設備に付ける部分なのですが、フィッティングというのはお客様の使われる業界や
装置の設計によって変わってきますので、要はフランジといっても構わないです。

Q細長いタイプのものは何も付いていませんね。

桑谷 これはゲージポートという真空設備によく使用されるフィッティングの一つで、ストレートのチューブで取り付けられます。
装置に固定しっぱなしでもよいですし、ケースバイケースで付けたり外したりしてもいいです。

♦測りたい時に測るというお客様の要求に応えられると期待♦

Qではこのスマートフォン対応ピラニ真空計はどんな用途に向いているのですか。

桑谷 各種真空装置、真空ポンプのメンテナンスも含みます。メンテナンスというのは測りたい時だけ測るというケースが多々ありますので、そういう用途の全てが考えられます。
実際に展示会に出展して反応を見てみましたが、研究分野では大学の先生なども「これならうちで使えるね」という声も聞かせていただいております。
真空展に来られた学生も「すごい!」と言ってくれましたね。あとはクライオタンク、真空を利用している世間一般のアプリケーションの一つだと思いますけれど、断熱タンク、断熱層があります。断熱層は壁が二重になっていてその間が真空になっているものです。その真空層が本当に真空なのかを確認することができる。用途は様々にあると思っています。

Qなかなかの製品のようですね。価格はいかがですか。

桑谷 価格帯は先ほど申し上げた7種類の仕様に対する違いのみです。価格帯は4万9800円〜とさせていただきました。
一般的なピラニ真空計の中でも非常にお求めやすい設定としました。

Q 性能も良いし、壊れにくいということなので、かなりの値段がすると思いましたが。

吉澤 なぜかといいますと、最初に従来品との比較をさせていただきましたが、弊社が提供するのは真空計本体のこの部分だけなのです。従来の形ですと、システ厶を構成するものが多く、本体、表示器、専用ケーブルなどが必要になりますが、「SWU10-U」は機能を絞っています。ですが真空を測るということにはまったく手を抜いていません。例えば、従来のものなら装置に据え付けることが前提で、基本的には常時測っています。場合によってはある真空度になったら信号を出してほしいとか、そういう信号を出す機能を持っている真空計もありますが、「SWU10-U」は真空の度合いを確認するだけという機能に絞っているのです。

Qいままでのタイプの真空計は販売を続けるのでしょうか。

吉澤 もちろんこれまでの真空計がなくなるということではありません。ただ、今まではこういうものがなかった。要は測りたい時に測るということをかなりのお客様が要求されており、それを解決するのが今回の製品ではないかと思っています。

Qこれがたくさん売れたら今までの真空計は要らないというお客さんが出てきませんか。

吉澤 もちろん価格としては「SWU10-U」の方が安いです。今までの常時測定を続けるという真空計はシステム全部含めると高価になりますので。
システ厶を構成するタイプは装置側に付けるには重要な真空計です。説明させていただいたように、この製品のコンセプトは測りたい時に簡便に測れるという点が今までと異なるところです。


桑谷 実際にスマートフォンの画面で見ると分かりますが、いわゆる経時変化がご覧になれます。後でデータを見たいならCSV形式で保存できるので、
パソコンに移すなりして、自由に扱える。シンプルですが、必要十分な機能になっています。

♦作業者が持ち歩くことも想定した大きさ♦

Qサイズもだいぶ小さくなりましたね。

吉澤 従来は表示機があり、今は何Pa (パスカル)と圧力を示すのですが、そこはスマートフォンが役割を担います。あくまで真空計の部分だけなので、ポケットに入れて持ち歩けるくらいです。

桑谷 作業者が持ち歩くことも想定していますし、または、真空装置でも常時は測らないというケースがあります。何かあったときの点検の時しか測らないものもあります。
その際は、装置には確認用のポートが何カ所かあると思うのですが、そこにブランクフランジの代わりに取り付けて置き、測りたい時につないで測るという使い方も想定しています。

♦ 7種類をラインアップでどのお客様にも適応できる♦

Qピラニ真空計のメーカは日本にたくさんあると思うが、この手のものは初めてですか。

桑谷 真空計はいろいろな会社が手がけていますが、このタイプは初めてです。

Q 一般的なピラニ真空計というのは使うガスでも寿命が違うと思いますが、およそどのくらい持つのですか。

桑谷 お客様の使い方にもよりますが、いわゆる不活性のガスであれば何年も持ちます。実際に何年も交換しないお客様もいらっしゃいます。
吉澤 フィラメントが内部に入っているのですが、完全に真空が保持されていて、不活性のガスであれば、本当に長期間持ちます。ただしそれが大気と真空の繰り返しとか、装置自体に振動があるとか、特別のガスを使うということによって非常に大きく変わる場合があるので、特異な例としては1週間以内で交換するお客様もおられます。

Qフィッティング径というのはJISで決まっているのですか。

桑谷 お客様によって違いがあり、これですとNW16と言われるもので、JISで規定されているものですが、それ以外のものもあります。真空の業界にはまったく自由なフィッティングはないので、私たちの経験に基づいてこの7種類をラインアップしました。これだけラインアップしておけば、お客様の使っているタイプのどれかに該当すると思います。

♦広がる使用用途に期待♦

Qこんなに簡単に真空が測れるといろいろな分野で使えそうですね。
完全な真空状態よりも少し減圧するようなプロセスのところに向いているようにも思いますが。

吉澤 自動車業界、空調業界、家電業界などで、少し減圧したところを測定している企業がたくさんあるので、そういったところにも十分チャンスがあると思います。
身近なところですと皆さんがエアコンを入れた時、業者さんが来てエアコンを室内に設置して外に室外機を置いて、最後にフロンガスを注入します。
その際真空ポンプを使って排気をして、それからフロンを注入する、そういうところの真空度のチェック等、身近なところでも用途があるかと期待しています。
いままでの真空計ですと、持って歩くのも大変ですし、100ボルト電源も探さないといけませんしいろいろ大変ですが、これはスマートフォンの電源でできますから。

桑谷 スマートフォンのバッテリーの持ちが気になるかも知れませんが、消費電力に関しては、ピラニ真空計は圧力によって消費する電力が異なってきます。
圧力が高い時の方がより電力を消費します。その場合でもスマートフォンのバッテリー容量にもよりますが、5〜6時間は持ちます。圧力が低い場合はもっと持ちます。それほど長時間測ることがどれほどあるのか分かりませんが、通常使用する範囲ではまず問題無いと思います。

Qこうした真空計を開発したきっかけはなんだったのですか。

桑谷 お客様のニーズと社内のアイデアの両方です。お客様の使い方によってはイニシャルのコストに効いてきます。それに対する答えがこの真空計だと思っています。もちろん私どもでもスマートフォンという今どきのアイテムを使うのも面白いかなということがありましたね。

♦真空を気軽に測る、そういうところを開拓していきたい♦

Qこれは日本で作っているのだと思いますが、値段的に割に合うのでしょうか。

吉澤 いまは本社.工場の茅ヶ崎で作っています。スマートフォンで測定でき、もちろん英語にも対応していますので、海外を含めて広く展開したいと思っています。

Qコンセプトを考えてから発売までにはどのくらいかかりましたか。

吉澤 1年強くらいかかりました。

Qお二人がおすすめする、こういうところに使ってもらえたら良いなというのをもう一度お願いします。

吉澤 今まで真空を気軽に測るいう発想が無かったと思います。スマートフォンは多くの人が持っていますから、この「SWU10-U」は世の中の流れをつかんでいると思いますね。

桑谷 真空を活用したものはたくさんあると思いますが、気軽に測るものがなかったのは事実です。そういうところを開拓していきたいという思いがあります。はっきり使えると言えるのはメンテナンス用途ですね。サービスマンが持ち歩いてもよいし、装置に据え付けてもよいのです。
何かあったときに測りたいというケースがいろいろな業界であると思いますので、そういう用途を期待しています。

〜長時間にわたり、興味深いお話をいただきましてありがとうございました〜

転載 : 一般社団法人日本真空工業会『真空ジャーナル』171号、2020年1月 6頁~11項

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