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世界的なヘリウム供給不足!漏れ試験はどうなる? いま注目される「水素漏れ試験」を検討する
2022年現在、ヘリウムの供給不足により漏れ試験に使用するヘリウムの価格が高騰しています。
サーチガスとしてヘリウムを使用する漏れ試験は、あらゆる機械・機器の製造現場において漏れ箇所の特定や気密検査に活用されています。
自動車部品、エアコン、電子部品、真空装置、半導体、食品関連、医療関連など、あらゆる機械・機器の製造現場においては、ヘリウムによる漏れ試験を製造ラインに組み込み、稼働している工場も多く、製造現場ではヘリウムの価格高騰や供給不安により多大なリスクに直面しています。
リークディテクタ「HELIOT900シリーズ」に高い評価をいただいているアルバックは、この課題に対していくつかのソリューションを提供しています。
この記事では、すでにお客さまからご質問やお問い合わせも多くいただいているヘリウムの供給危機に伴う漏れ試験の今後の展望と「HELIOT900シリーズ」を活用した適切なソリューション、そのほかの提案をご紹介いたします。
漏れ試験に大打撃!ヘリウムショックとは?
ヘリウムは、一般的には天然ガスの産出時の副産物として採取し精錬されます。ヘリウムの産出量はアメリカが最も多く、かつては全世界の貯蔵量の約3分の1を備蓄、全世界の商用ヘリウム生産量の約80%を占めていました。
これまで日本では、アメリカからの輸入にその多くを頼っていたのですが、アメリカ政府は2015年に備蓄分をすべて民間に売り切り、米国連邦ヘリウム貯蔵庫は閉鎖され、その供給源が絶たれることとなりました。日本のガス輸入業者はリスク分散のために購入先を分散するなど、さまざまな地域から供給源を探っていましたが、Covid-19の影響やウクライナ紛争により、サプライチェーンそのものが不安定な状態となっています。
ヘリウムは医療用のMRIでの使用を優先するため、漏れ試験や冷却用として用いられる工業用ヘリウムは供給を制限されているという状況です。また残念ながら、今後の見通しも暗く、サーチガスとして活用する工業用ヘリウムの供給不足は続いていくと見込まれています。
漏れ試験にヘリウムは不可欠なのか?
ヘリウムリークディテクタは、数多くある漏れ試験方法の中で「最も小さな漏れ」を「最も短時間」で検査できる『最上位の漏れ試験機器』として、多くの精密な製品の漏れ箇所の特定や気密検査に活用され、品質管理向上のために大きな役割を担っています。
ヘリウムによる漏れ試験は、多くの分野ですでに一般的に幅広く活用されており、ほかに代替のきかない漏れ試験となっています。
自動車部品、エアコンなどの空調、電子部品、真空装置、半導体、食品関連、医療関連などその用途は枚挙にいとまがありませんが、とくにこれから多くの需要が見込まれる電気自動車用車載バッテリーの分野では、バッテリケース、コンバータやバッテリ冷却用クーリングパイプなど複数の漏れ試験の工程が必要となってきます。
ヘリウムの供給不足も価格高騰の影響は小さくないと考えます。アルバックは、すでに高い評価をいただいている「HELIOT900」シリーズを活用して、持続的に品質精度を高めながら、かつ、安定したコストで運営する「持続的で品質の安定した漏れ試験」をご提案したいと思います。
漏れ試験の種類と特長
ヘリウム漏れ試験を見つめなおすために、あらためて、ほかの漏れ試験に含めてご紹介します。
漏れ試験は、JIS(日本産業規格)によると3つの方法に分類されています。
- 液体を用いた漏れ試験
- 空気などの気体を利用する漏れ試験
- サーチガスを用いた漏れ試験
ヘリウムを使った漏れ試験は、3の「サーチガスを用いた漏れ試験」に該当します。「サーチガスを用いた漏れ試験」は以下の4つに分類されます。
4つのうち、水素、ハロゲン、ヘリウムを使った3つの方法が分析装置を用いた方法で、製品検査ラインのなかで活用されることの多い漏れ試験方法です。
あらためて、漏れ試験の種類と特長、検出漏れ量の目安をご覧いただくと、ヘリウムによる漏れ試験がいかに優れた特性を有しているかがおわかりいただけると思います。
ヘリウムによる漏れ試験は、いまから80年以上前に実用化されました。リークディテクタの性能向上も進み、現在に至るまでヘリウム漏れ試験は、信頼性の高い漏れ試験方法として不可欠な存在となっています。
サーチガスとしてのヘリウムの特性
ヘリウムに代わる漏れ試験の可能性は?
ヘリウム漏れ試験の必要性についてはご説明しましたが、アルバックではヘリウムの供給不安・価格高騰が深刻さを増す中、漏れ試験の持続可能性についても必要であると考えています。
まず、アルバックの「HELIOT900」シリーズは、ヘリウムだけでなく水素をつかった漏れ試験が可能です。しかも、一般的な水素テスタなどに比べて精度の高い検査が実現できます。
水素は、昨今のヘリウム供給不足からヘリウムの代替ガスとして注目されています。
水素漏れ試験といっても、従来からある水素テスタ(半導体センサタイプの簡易型)による水素漏れ試験は、試験品内部を加圧したSniffer法だけとなり、検知レベルも低く、そのためヘリウム漏れ試験と住み分けされていた漏れ試験方法でした。
ヘリウムの代替として水素漏れ試験を行うケースは、ヘリウム漏れ試験を実践している場合で「真空を利用して行う試験方法」の場合であり、水素テスタではこの方法を使用できません。すでに使用中のヘリウムリークディテクタの水素モードを使用して行うことを前提としています。
アルバック HELIOT900シリーズの水素モードの操作方法については以下で紹介しています。
>HELIOT900ならヘリウム漏れ試験と同じ方法で水素漏れ試験が可能
>HELIOT900水素モード 機器操作
また、漏れ試験の基準そのものを見直すことも必要かも知れません。ヘリウム漏れ試験でないと成り立たないという測定範囲や用途は意外と少ないといわれています。おそらく水素での測定で賄える用途も多いのではないでしょうか。
ただし、検知できる漏れの大きさが現在のヘリウム検査レベルを担保できるかどうかについての検討は必要です。サーチガスの濃度が薄い、自然発生する水素成分が多いなどにより、ヘリウムよりも小さい漏れが試験し難くなるので注意が必要と考えます。
さらに、水素の検討と合わせて、現在のヘリウム漏れ試験のヘリウム消費を少なくなる方向も合わせて検討するのも良いと思います。
ヘリウムを希釈する、測定に使ったヘリウムを回収して再利用するという方法については以下でご案内しています。
>さらに、漏れ試験を持続的に考えていきたいこと
水素漏れ試験の可能性
水素漏れ試験(水素濃度5%)は、ヘリウムによる漏れ試験とに比べると小さい漏れを検知しにくい特性がありますが、ある範囲においてはヘリウムに代替する漏れ試験は可能だと思われます。
ここで、水素漏れ試験を検討するにあたり、必要な特性理解、検証項目などについて紹介します。
水素は爆発限界濃度以下(5%水素、95%窒素の混合ガス)で使用
水素による漏れ試験を行う場合は「5%水素、95%窒素の混合ガス」をボンベで購入します。このとき、水素濃度は固定で、自社設備などでの希釈は行いません。 流体はベースガスの窒素(95%)となります。
自然発生する水素の影響
漏れ試験のサーチガスとして使用した水素以外にも試験品、配管、リークディテクタなどを構成する金属からも水素が発生します。ヘリウムに比べて、大気中の含有量は少ないものの、測定時のバックグラウンドが高い原因となります。
検出方式
水素による漏れ試験は、大きくわけて2つの方式があります。従来から普及している水素テスタと呼ばれる「半導体センサ式」のように手軽なものと、アルバックの「HELIOT900シリーズ」ような「質量分析法」のいわゆるリークディテクタです。検出方式による特性は以下の通りです。
半導体センサ式(簡易型水素テスタの場合)
・分析ガスの圧力:大気圧
・水素以外のガスに反応する可能性を含む
・温度変化で変動しやすい
質量分析法(HELIOT900の場合)
・分析ガスの圧力:大気圧、真空
・ヘリウムモードよりも漏れ量の表示範囲が狭い
ガス種による漏れ量の違い
水素による漏れ試験では、漏れ経路を流れるガスの95%を占める窒素で換算しています。
粘性係数による換算式 Q2=(η1/η2)×Q1 η:粘性係数
水素5%混合ガスはヘリウム(He:100%)に比べ約10%多く漏れる結果となりますが、ほぼ同程度といえます。
よって、これまでヘリウムで行っていた漏れ試験のうち、ある程度のレベルについては、水素で対応できると考えられます。
アルバックの「HELIOT900シリーズ」は、水素モードでの測定が可能です。湿度、温度など外気温の影響をうける水素テスタに比べ、高精度の水素漏れ試験が可能ですので、水素漏れ試験においては、アルバックの「HELIOT900シリーズ」を活用することをおすすめしています。
HELIOT900ならヘリウム漏れ試験と同じ方法での水素漏れ試験が可能
アルバックのヘリウムリークディテクタ「HELIOT900」シリーズは、ヘリウムリークディテクタとしては国内で最大のシェアを誇ります。
「HELIOT900シリーズ」は、排気速度が大きく、利便性にも優れたヘリウムリークディテクタです。一人作業が可能かつ高性能で、漏れ試験を効率的に行うことができます。
HELIOT900シリーズ|スタンドアロン|リークディテクタ|製品情報|ULVAC SHOWCASE
高い排気能力、タブレット型コントローラの採用、直感的に操作が可能なテスト画面などの特長をもつ「HELIOT900シリーズ」は、一人での作業が可能で小さな漏れもその場で結果がわかります。また本製品は、スリムで狭い通路も移動しやすく、起動時間は約2分、停止時間は1分未満ととても早いため、漏れ試験の作業効率が上がり、装置を止めている時間が短くなります。
そして、大きなポイントは「HELIOT900シリーズ」はサーチガスとしてヘリウムの他に、水素が利用可能です。水素モードは標準機能として搭載しています。
水素による漏れ試験では、水素5%、窒素95%の混合ガスのボンベを使用します。微小漏れの試験についてはヘリウムには及びませんが、水素での漏れ検出も可能です。
「HELIOT900シリーズ」は、ヘリウムに対して、廉価であり、供給も安定している水素混合ガス(水素5%、窒素95%)を活用できることは大きなメリットであると考えられます。
なぜアルバックがリークディテクタをつくるのか?
リークディテクタはガス分析、真空ポンプ、真空計、真空バルブなどの真空コンポーネントの集合体といえます。
世界で唯一の真空総合メーカーであるアルバックは、真空装置の製造および真空コンポーネントの製造実績を活かし、1967年よりリークディテクタを商品化し販売を開始しました。
ヘリウム試験の代替として行う水素試験の相違点および確認内容
HELIOT900シリーズを活用して、ヘリウムの代替として水素試験を行う場合の相違点と確認内容について紹介します。
1.サーチガス濃度の違い He:任意濃度 → 水素:5%(固定)
【確認内容】現在の判定値(漏れ量)を、サーチガス濃度5%の判定値に換算します。
例) He(100%)1x10-6 Pa・m3/s → (5%) 5.0x10-8 Pa・m3/s
例) He(20%) 1x10-6 Pa・m3/s → (5%) 2.5x10-7 Pa・m3/s
※) HELIOTで表示する漏れ量はサーチガス濃度 = 100%を想定しています
2.HELIOTの表示下限 <0.01 x10-8 漏れ量単位 Pa・m3/s
【確認内容】サーチガス5%の判定値が x10-8 Pa・m3/sより大きい必要があります。
3.水素モードでのバックグランド確認
水素は金属に含まれるので真空状態で放出ガスとして発生します。出てくる傾向があります。
【確認内容】試験品、配管等を付けた実際の試験条件を水素モードで実測して、バックグランドが試験可能レベルまで下がる事を確認します。
1. 2. 3. までは水素ボンベを使用せずに確認できます
4.試験品の水素実測
従来のヘリウム漏れ試験の実測値との比較を行います。(漏れ量、応答性、排気時間)
HELIOT900水素モード 機器操作
「HELIOT900シリーズ」の水素モードの選択は、スタートアップ操作前に行います。以下の内容をご確認ください。
- 初期画面:MENU>設定>[一般]内
・[測定ガス]:ヘリウム(初期設定)→水素を選びます
・EXIT(右上)で初期画面に戻ります
- スタートアップ操作
・約5分間で起動完了します
- 起動完了後は機器内部のクリーンアップを目的に、できるだけ長くエージング時間を取ります。(1時間以上を推奨)
- エージング後に感度校正 をする(推奨)
・一端テストを終了し MENU>[感度校正]で再感度校正を行います
- 校正リーク
- 初期設定「内蔵校正リーク」では、内蔵校正リーク(ヘリウム)を使用します。
・感度校正後にイオン軌道をヘリウム→水素に切り替え
・水素計測時の感度は、ヘリウムによる校正データに基づいた係数処理して使用しています
- 水素校正リークをテストポートに取り付けて校正する場合には「外部校正リーク」を選びます。
HELIOT900水素モード Sniffer法使用方法
「HELIOT900シリーズ」の水素モードはSniffer法を選択できません。その理由は機器内部から発生する水素によって感度校正の精度が得にくいためです。
テストモードは搭載していませんが、下記の手順で水素Sniffer試験も可能です。
- HELIOT本体以外の準備
- HELIOT900series用Snifferユニット(AS9, BS9, BT9) - 手順
1. HELIOTを水素モードで起動
2. Snifferプローブ取付
3. Snifferテスト実施
さらに、漏れ試験を持続的に考えていく
アルバックの「HELIOT900シリーズ」は、水素による漏れ試験にも対応できます。
ヘリウムを活用した漏れ試験のうち、水素で測定できる範囲は限定されることにはなりますが、とはいえ用途によっては活用が期待できる可能性もあるでしょう。
しかし、水素では漏れ試験要求を満足することが出来なかった場合、または現在のヘリウム漏れ試験を継続する場合においては、以下のようなアイデアを検討してみてはいかがでしょうか。
漏れ試験の判定値が適切か
ヘリウム漏れ試験は非常に優れているということもあり、その測定範囲を鑑みて検査基準を必要以上に厳しく設定している場合があります。
従来の検査基準が、必要以上に厳しくないかご確認ください。そもそもの根拠が不明のまま過去から定められている検査基準ではないか、使用限度をはるかに上回る安全性を考慮した厳しい検査基準が設定されているといったことはないでしょうか。
実際にアルバックのお客さまのなかでも、従来の数値がオーバースペックであり、適正な判定値に見直すことで、水素での代替使用ができるようになったというお話をうかがっています。
もし、検査基準を見直しても、製品の品質が保証されるといった場合には、水素漏れ試験が可能になる場合があります。さらに、濃度を低くしたヘリウムによる試験が可能になる場合があります。
ヘリウムを薄める
ヘリウムの濃度を変更して漏れ試験に活用するという方法があります。
現在のヘリウム濃度、判定値、バックグラウンド値によっては、ヘリウム濃度をさらに低くでき、希釈したヘリウムを活用できる場合があります。
ヘリウム濃度を低くすることで、実際の判定値も小さくなりますが、バックグラウンドが現在より上昇しにくくなる可能性があります。ヘリウム漏れ試験のバックグラウンドは、サーチガスとして使用したヘリウムによるものです(水素漏れ試験では自然発生する水素が大きく影響しています)。
ヘリウムを薄めるには、混合機を使用して自社設備でつくります。ヘリウムの濃度を指定したボンベは購入できません。ヘリウム回収装置を使用する場合は、回収装置で濃度を指定することが可能です。
ヘリウムをリサイクルする
ヘリウムを充填する方法であれば、一度、漏れ試験でつかったヘリウムを回収して、リサイクル利用することができます。じつはヘリウムの濃度は10%~90%程度での使用が多いため、このようなリサイクル利用が可能となります。
ヘリウムを回収してリサイクルするためには、ヘリウム封入回収装置が必要です。ヘリウム封入回収装置は、濃度を監視し必要に応じてヘリウムを補充します。真空吹付け法、真空フード法では、ヘリウムの回収はできませんが、ヘリウムチャンバなどにすることで使用可能になります。
「石油ショック」ならぬ「ヘリウムショック」とも呼べるヘリウム供給不安および価格高騰において、水素をつかった漏れ試験に切り替えたり、あるいは漏れ試験の検査基準を見直したり、限りあるヘリウムの濃度を変えたり、リサイクルしたりといった方法で、これまでと同様の品質検査を行える可能性もあります。
アルバックでは、さまざまなケースを想定して、お客さまの漏れ試験についてサポートしております。
くわしくは、こちらまでお問い合わせください。
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