独自の空気造形技術に"真空の知恵"をプラスして逆境を切り拓く!!「エアー式簡易陰圧室」(『真空ジャーナル』2021年7月 177号掲載 )|Technology|ソリューション|ULVAC SHOWCASE
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    (『真空ジャーナル』2021年7月 177号掲載 )

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一般社団法人日本真空工業会『真空ジャーナル』177号、2021年7月発行の 4頁~9頁に真空が融合する現場を取材した「TECH・テク・TAKE93」に掲載されました対談記事をご紹介いたします。

企業紹介

株式会社ワン・ステップ

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アルバック機工株式会社

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本社所在地:〒889-1602 宮崎県宮崎市清武町今泉甲4625-1 本社所在地:〒881-0037 宮崎県西都市大字茶臼原291-7
代表者:代表取締役社長 山元 洋幸 代表者:代表取締役社長 申 周勲
設立:2002年(平成14年) 設立:1971年(昭和46年)
資本金:1,000万円 資本金:2億8,000万円
従業員数:25名 従業員数:287名
事業概要:
イベント遊具企画・レンタル・販売、イベント向け工作キット企画開発・卸販売、防災・減災・感染症対策・医療関連機器の開発・販売・レンタル
事業概要:
小型真空ポンプと小型真空機器、それに関連する周辺機器の製造販売

対談者

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株式会社ワン・ステップ
代表取締役社長
山元 洋幸(やまもと・ひろゆき)
1977 年生まれ 大阪府出身
宮崎大学農学研究科修士課程在学中に起業
2017 年 九州ニュービジネス協議会 アントレプレナー大賞受賞

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アルバック機工株式会社
ME 部 課長
宮田 一秋(みやた・かずあき)
医療機器の製造受託、医療関連機器開発、医療機器メーカとの共同開発業務に従事

(以下引用)

株式会社ワン・ステップ/アルバック機工株式会社

このコーナは真空技術が不可欠な分野、真空技術が使われる可能性のあるフィールドに足を運び、研究開発のポイント、そこで活躍する技術、将来の発展性などを分かりやすくお伝えしています。さて93 回目は株式会社ワン・ステップとアルバック機工株式会社を訪ねました。

イベント遊具のレンタル事業で順調に業績を伸ばしてきたワン・ ステップ。ところがこのコロナ禍で一転、会社設立以来の大ピン チに。そこで社長の山元氏が考えたのが、得意とする空気を使っ た造形技術を"今"だからこそ活かせないかということだった。自社 にないノウハウはアルバック機工など他者に協力を得ながら、今ま さに世の中に必要とされるエアー式簡易陰圧室を開発。現場の ニーズに、細かく柔軟に対応することで、コロナ禍の厳しい状況に も負けない、皆に喜ばれる会社を目指す。

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エアー式簡易陰圧室(3室タイプ) 簡易陰圧装置

♦空気を使ったイベント遊具を手掛けて成長

Q まずは山元さんから、ワン・ステップという会社についてお話しいただけますか?

山元 弊社の本業は、親子連れが集まるイベントなどでビニールを空気で膨らませて使われる滑り台や大きなプールなどのエアー式遊具を企画・製造・レンタルです。20年前、私が学生の頃に起業した会社で、きっかけは当時知り合った観光施設を運営していた会社の方に、「現状の物販ばかりの施設だと、ファミリー層が来たときに子供たちが飽きてしまう。何か子供たちが楽しめるものはないか」と相談されたことです。そこで、彼らが喜びそうな空気で膨らむ遊具を他社から借りてきて、私たちが運営するということを始めました。いざ始めてみると、そうした需要は意外とあり、周りを見ると同業他社はあまりいない。そこで土日のイベント需要を取り込み、少しずつ手を広げてきました。

Q なるほど、そこから成長していったわけですね。

山元 エアー式遊具を自社で開発し、海外の工場で作ってもらったり、探してきたりして、宮崎から九州、広島、大阪まで営業圏を拡大し、これらの遊具のレンタルをしてきました。お陰様で今年で設立20期目ですが、このコロナ禍になる前までは、だいたい年20%くらいで増収を続けていました。社員も私一人で始めて、新卒社員を育てながら、今は25人にまで増えてきています。

Q すごいですね。しかしながらイベント事業は今も厳しいですね。

山元 ええ、このコロナ禍でイベント業への自粛要請は厳しく、事業そのものが難しくなってきました。そこで今回テーマの"簡易陰圧室の開発"という話になるのですが、実はこのような状況になる3、4年前からイベント遊具市場の限界を感じるようになってきました。私たちが普段やっている"空気で膨らませる"こと、つまり、普段は折り畳んで小さくなり、収納性、可搬性がよく、必要な時だけ空気を入れて大きくするという特性を活かして、防災関係に参入できないかと模索していました。医療用テントだったり、洪水の時にボートの様にして身を守る製品などの開発を始めていました。そこにこのコロナが来て、今後、皆さんから必要とされるであろうエアー式の簡易陰圧室ができるのではないかと考えたのです。異業種からの参入でしたから、当然、自分たちの力だけではなかなか解決できない課題もあり、これに対してアルバック機工さんをはじめ、感染症の現場に詳しい宮崎大学農学府附属動物病院の金子泰之准教授、医療現場に精通している福井工業大学の竹田周平先生などに相談しながら開発してきました。

Q そもそも陰圧室とはどういうものですか?

山元 感染症の疑いがある方を隔離するための部屋です。エアー式簡易陰圧室は、空気によって柱を膨らませて透明シートで外部と隔離した部屋を作ります。そして、陰圧装置で内部の空気を吸うことで陰圧状態を作り、室内の空気はHEPAフィルタを通して屋外にクリーンな空気として排出します。部屋の内と外で常時2.5Pa以上の差圧を作り、室内を陰圧状態に保ち、中の空気が外に出ないようにするものです。

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装置開閉扉(開)

Q 実際の開発はいつ頃から始まったのですか?

山元 開発自体が始まったのは、去年の2月、中国でのコロナ騒動が他人事ではなくなってきた頃です。これはちょっと危ないぞという空気になってきたときに、こういうものが必要になるのではないかと思い、プロトタイプを作ってみたのが始まりでした。いつも一緒に製品開発をしていただいた大阪の商社さんと試作品を作りました。その時は、伝手を頼って、中国のメーカから、部屋の中の空気を引くための陰圧装置を輸入して使いましたが、品質が担保されているのかよく分からなかったり、試作で1台目を輸入した後、2台目を輸入しようとしたら、中国の税関で戦略的物資に指定されて出国を止められてしまうという壁に突き当たってしまいました。それが去年3月の終わりころでしたね。

Q それは大変でしたね。

山元 陰圧装置の仕組みについては素人なので困りましたが、とりあえず、世の中の需要を探るために、陰圧装置抜きで、"簡易陰圧室にも使える空気で作る部屋"の試作品をホームページに載せまして、"今はまだこういう状態です"ということを明記し、もしかしたらどこかの会社が陰圧装置を持っていて、協力してくれるかもしれないと期待していました。これに対して、いろいろな病院などから問い合わせが来て手応えを感じたのですが、まだ完成していないので、一緒に完成を目指してくれる会社や研究所を探していますという返事をするしかありませんでした。

◆アルバック機工、簡易陰圧装置の開発に乗り出す

Q そこでアルバック機工さんが登場してくるわけですね。

山元 去年4月のはじめに、産業技術について相談に乗ってくれる宮崎県の窓口へ行き、私たちの課題を解決してくれるところはないだろうかと話をしました。すると、そこのコーディネータの方が、同じ宮崎県にあるアルバック機工さんだったらそういう技術を持っており、相談に乗ってくれるのではないかということで、紹介をいただいたのです。正直な話、"医療用の陰圧"ということを良く知っておらず、最初はアルバック機工さんに陰圧についての基礎をリモートで2時間くらいレクチャーしてもらいました。そこで初めて簡易陰圧室にはこんな条件が必要なんだとか、ここが今足りていないとか、こういう試験をクリアしなければいけないということを理解しました。

Q そして宮田さんのいるアルバック機工のME 部が担当することになったのですね。

宮田 弊社は、これまで一貫して小型真空ポンプ、小型真空機器の専門メーカとして幅広い産業分野で仕事をしてきました。近年では、小型・省エネ・クリーンをキーワードにした環境対応商品の創造により、代替エネルギー産業や健康・福祉・医療の分野に対しても積極的な商品開発を進めています。私のいるME部(メディカルイクイップメント)もその一環として作られた部署なのですが、医療機器を主に担当する部署で、医療機器の受託製造や共同開発もしています。今回、ワン・ステップさんと開発した簡易陰圧室については医療機器ではないのですが、医療現場で使われる医療関連機器としてME部が担当し、開発しました。

Q ワン・ステップさんから相談を受けてアルバック機工さんはどうしたのですか。

宮田 まずは、山元社長からテント式陰圧室のサンプル、そして中国から仕入れたという陰圧装置を借りて、調査分析から始めました。また、市場調査も行いました。でも、一番大きかったのは、山元さんの話を聞く中で、その強い気持ちをひしひしと感じたことですね。6月くらいには、社内的にOKがでて、本格的にスタートしました。ただ、その時は通常の開発期間を考えると、急いで年内くらいにリリースかなと思っていたのですが、最初のキックオフミーティングの時に、橋渡し役のコーディネータの方から「それでは全然間に合いません」と言われ、これまでには考えられないようなスピードで完成まで持って行きました。結局、6月にスタートして、10月中旬に簡易陰圧装置を完成させ、その月末くらいには、ファーストロットをワン・ステップさんに出荷しました。

Q どんなところに苦労しましたか?

宮田 まず、この陰圧室に必要な空気を吸い込む風量が、弊社で扱っている小型真空ポンプよりも桁違いに大きかったところです。真空度はさほど必要ないのですが、弊社の現状のラインアップでは対応できませんでした。そこで、完成までの期間がなかったことと、量産時の安定的な調達も含め、国産のブロアを選定し、搭載しました。さらに、最初のプロトタイプから実際の量産型に移行するまでに、いろいろな意見をいただき、改良していきました。例えば排気音が大きく、もう少し音を小さくして欲しいという要望がありましたが、これは風切り音を低減するための消音フィルタを追加することで解決しました。

Q 使いやすさにもこだわったようですね。

宮田 他社にはない、この装置の特徴は、簡易の部屋と外との圧力の差が2.5Pa 以上になると緑のランプが点灯する仕様になっていることです。もう一つは、フィルタが目詰まりを起こしたときに、フィルタの交換時期をランプで知らせる機能も付けています。操作はシンプルで、スイッチを入れるだけで陰圧室ができ、それが適切な状態であるかも確認できるため、素人でも扱える設計となっています。

山元 もう一つ、製品の大きな特徴は、現場に持ち込んで使えるようにするまでの準備時間が非常に短く、手間がかからないことです。空気の部屋自体は、空気入れ口にポンプを差し込んで、送風機のスイッチを入れるだけで、3分くらいで勝手に膨らみます。その後、簡易陰圧装置をつけてスイッチを入れれば、密閉性が非常に高いので、1分程で2.5Paを実現できるのです。ものの5分程度で簡易陰圧室ができあがります。病院などで、先生や看護師さんがてんやわんやの時に、他の事務方の人でも簡易陰圧室を作ることができるのです。"分かりやすく簡単に作ることができる"というのがかなり好評です。

◆いろいろな現場の細かいニーズを吸い上げ対応

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陰圧レベルやフィルタ交換をランプでお知らせ

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収納時は横幅65cm、高さ45cmとコンパクト テントの立ち上げは送風機で。
簡易陰圧装置を繋げれば5分程度で設置完了。

Q 簡易陰圧室に対するニーズはコロナだけではなかったそうですね。

山元 はい、宮崎大学の獣医の先生である金子先生に「コロナも勿論だが、動物病院でも感染症が問題で、こういうものがあったら非常に助かる」と興味を持たれ、ご協力をいただきました。動物病院にも感染症の問題はあるのですが、人間の病院のように何百万円というお金をかけて本格的な陰圧室を作ることはできません。そこで簡易的な陰圧室が低コストでできれば非常に助かるということで、共同開発に進みました。金子先生は実験動物を使って、この陰圧室の中でどれだけ快適に動物が生活できるか、実際にテストをしてくれました。3週間くらい陰圧室の中で猫を飼ってもらい、「獣医の立場からだと、こういう部屋の構造の方が良い」とか、「こういう作業スペースが良い」と意見をいただき、部屋の構造設計や動線などを金子先生と検討させていただきました。

Q それは面白い使い方ですね。

山元 現在、試験的に動物病院に入れさせていただき、実際に使いながら改良をしています。人間の病院と違いスペースが非常に狭く、簡易陰圧室をそのまま1セット入れるのが難しいので、いろいろな工夫をしています。動物を1匹ごとに入れられる小部屋なども検討しています。それから、陰圧装置を反対に付け替えると陽圧室になるので、これを利用して牛用の施術室を作ろうという試みもあります。牛は病院まで連れてきて治療をすることが難しく、基本的に牛舎で施術をします。ところが、牛舎は藁が舞っていたりと施術場所としては決して良い環境ではありません。先日もテストしたのですが、私たちの陽圧室を使えば、中の細菌などが劇的に減るということが分かりました。コストをかけずにそういう環境を整えたいという要望に応えられるのではないかと思います。

Q いろいろなニーズを吸い上げていったわけですね。

山元 はい。問い合わせの中には、現場での実践に即した細かい意見もあり、それらに対応するノウハウを蓄積しました。具体的な例ですと、入口をファスナーで開け閉めするのですが、その位置をどこに設けるのかということがあります。基本は1本のファスナーの開け閉めで密閉するのですが、部屋内にベッドを置くためには、ファスナーを左右に2本縦に入れて巻き上げ式にして欲しいとか、下でU 字型にして欲しいという要望をいただきました。そういう現場の声を聞いていると、画一的な商品では対応できず、いろいろな事例をお客様に紹介していくことが重要だと実感しました。そうしてできたのが、この製品の特性でもあるのですが、部屋のサイズを変更できたり、一式ずつカスタマイズできる柔軟性です。多様なバリエーションを用意して対応していきます。

Q バリエーションはどのくらいあるのですか?

山元 はい。問い合わせの中には、現場での実践に即した細かい意見もあり、それらに対応するノウハウを蓄積しました。具体的な例ですと、入口をファスナーで開け閉めするのですが、その位置をどこに設けるのかということがあります。基本は1本のファスナーの開け閉めで密閉するのですが、部屋内にベッドを置くためには、ファスナーを左右に2本縦に入れて巻き上げ式にして欲しいとか、下でU 字型にして欲しいという要望をいただきました。そういう現場の声を聞いていると、画一的な商品では対応できず、いろいろな事例をお客様に紹介していくことが重要だと実感しました。そうしてできたのが、この製品の特性でもあるのですが、部屋のサイズを変更できたり、一式ずつカスタマイズできる柔軟性です。多様なバリエーションを用意して対応していきます。

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陰圧室内にベッドを置いたり、医療従事者による検査用スペースとする事も可能

Q バリエーションはどのくらいあるのですか?

山元 基本の商品ラインアップは、1室タイプと3室のタイプです。介護施設などで個室の中に隔離する部屋をつくるのが1室タイプで、3室タイプは入口、本室、出口という構成になっていて、利用者が一方通行に動くようにして安全性を高めています。そしてこの基本形に、部屋の大きさが変わったり、機能が変わったりする。さらに、要望によりファスナーの位置が変わったり、出口の部屋は小さくするとか、高さが足りないとか、細かい要望に柔軟に対応していきます。3分の1くらいは、オーダーメイドでご注文をいただいており、私たちが実際に現場を計測して作ることもあります。

Q 陰圧室の大きさはどの程度まで大きくできるのですか?

山元 サイズは3部屋のもので、14立方メートルくらいです。それ以下なら対応できます。それ以上の大きさのものを求められれば、陰圧装置を2台設置して対応することを提案しています。新たに大型の陰圧装置を作るよりもその方がコストパフォーマンスは良いと思います。

Q 大きさへの要望は結構あるのですか?

山元 今は、屋内用途での簡易陰圧室としてやってきていますが、屋外でも使用できる大きなテントのようなものができないかという問合せが多いです。そうなると空調も必要となってきますが、アルバック機工さんなど協力してくれる力強い味方もいますので、そのあたりの需要も拾ってラインアップに加えていきたいと思っています。

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屋外設置例

Q 陰圧装置への要望はどうですか?

宮田 今回の簡易陰圧装置は陰圧室の外に設置して使ってもらう仕様になっていますが、スペース的な問題でどうしても陰圧にする部屋の中に陰圧装置を入れて使いたいというニーズがあるということをお聞きして、何とか対応できないかと改良を進めています。もう少しで量産できるメドが立っています。部屋の中に陰圧装置を置いて排気する形にすると、すべての空気をHEPAフィルタを通して外に出さなければならないので、そこが難しいところですね。

Q 受注状況はどうですか?

山元 2020年10月の終わりから始めて、現在まで受注いただいているのが110くらいです。出先としては、病院や介護施設が多いですね。年末から年始にかけては、今日明日にでももらえないかという切羽詰まった要望もありました。

◆真空技術で医療機器分野に切り込む

Q ここで少し話はそれますが、宮田さんのME部について教えてください。

宮田 これまで当社の真空ポンプは、医療機器のひとつの部品として、いろいろな機器に組み込まれてきました。そういう実績はあったのですが、会社として、医療機器の最終製品に携わることはありませんでした。これまでの実績を踏まえて、将来の医療機器産業の成長を見越して、ME(メディカルイクイップメント)関連の専門部署が必要だろうということで、この部ができたのです。そして、この分野への本格的参入を目指し、2013年10月に薬事法における「医療機器製造業許可」を取得し、これまでの医療機器の構成部品にとどまらず、医療機器の製造も可能となり、従前にも増して医療機器メーカのさまざまな要望に応えていけることになりました。そして2014年には医療機器の受託製造を始めました。以降の活動事例としては、宮崎大学医学部附属病院救命救急センターと連携し、2019年に開発したポータブル吸引装置などがあります。

Q それはどんなものですか?

宮田 医療関連機器として病院内の設備として使われるもので、ダイアフラム型のドライ真空ポンプを使った「救引Gen」という製品です。病院には設備室に大きなポンプがあって、そこから各病室に配管をして吸引する接続口が壁にあるのですが、実は東日本大震災の時に、この壁の吸引口に繋がる配管が損傷してしまい、吸引ができずに亡くなった方がいたと聞いて、そういった状況の中で何かできることはないかということでこの救引Genを開発しました。大きな特徴としては、壁配管と同じ差し込み口が装置についていて、壁の吸引口の代わりになるものとして提案させていただいています。これは正確には医療用の設備ですが、医療現場で使われるため、私どもで担当しました。今は、新たな共同開発の話なども医療機器メーカから来ていて、これからスタートをしようとしています。私たちは自分たちの真空に関わる技術を武器に、医療機器メーカと企画段階から共同で開発に携わり、製造まで持っていくこともしています。

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アルバック機工製「救引Gen」

Q 日本では医療機器の開発製造は法的なハードルが高いと聞きますが、この簡易陰圧装置はどうでしたか?

山元 医療"関連"機器だったので、申請などそれほど難しいところはありませんでした。ただ、ユーザからは本当に陰圧になっているのか、という疑問はありました。その点に関しては、必要な陰圧になると装置のランプが緑に点灯するので、ひと目で分かるのがとても説得力がありました。また、アルバック機工さんが簡易陰圧装置を作ってくれたのも大きかったですね。もしあのまま、外国製の陰圧装置を使っていたら、これで本当に陰圧が保証されたのか、お客さんに突っ込まれたと思います。それが実績のあるアルバック機工さんに作ってもらっているので、その話をすると、それなら大丈夫ですね。という品質の担保になりました。説明は非常にしやすく、お客さんも納得してくれました。

宮田 簡易陰圧装置は、医療機器ではなく医療用の設備にあたるのですが、医療機関の中で使われることを想定する必要があります。そのため我々としては医療機器の認可を取っているわけではないですが、医療機器に求められている電気的な安全性試験に関しては自社で全て行っています。特に難しいのが、EMDというノイズに関する試験なのですが、宮崎県の工業技術センターに医療機器に必要な試験ができる設備が一式そろっていまして、それを使わせていただき、医療機器と同等な試験をクリアしています。こうした説明もデモ時にさせてもらい、それが安心感につながったと思っています。

◆世の中に求められる製品にこだわりたい

Q 今後はどのような方向を目指していますか?

山元 私たちの強みは、フットワークが軽いことです。どこにでもデモに行き、相談に乗りますし、オリジナルで作ってしまうことも含め、柔軟に対応します。お客様が一番評価してくれているのも、そこだと思っています。この簡易陰圧室も、どこへでも持っていきますので、現物を見ていただき、簡単に使えるということを実感してもらいたいと思っています。さらに今、もう一つ考えているのがレンタルです。こういう陰圧室のような製品は、緊急時に必要で、そうでない時にはいらないという要望もあり、費用や需要などを考えると難しい面もあるのですが、買うまではできないけれど、レンタルでしのぎたいという要望に対して、何らかのサービスを提供していきたいと思っています。

宮田 今回の簡易陰圧装置もそうですが、市場に求められる製品開発を継続していきたいと思っています。この装置はコロナの第3波に合わせて出せたので、まさに世の中に求められていました。やはり世の中が求める製品を求められるタイミングで出していくことに強い思いがあります。私たちが持っているコアな技術というのは、小型の真空ポンプで減圧したり、加圧したりという技術で、それにプラスして医療機器製造業の許可をとり、医療機器の受託製造ができるということを強みにして、いろいろな医療機器の共同開発や医療関連機器の開発を手掛け、真空技術をこの分野で役立てたいと思っています。

山元 私たちができることと言えば、急なニーズにスピーディに、きめ細かい対応をするということです。そうすることで、お客様に「あ~、ワン・ステップがあって良かったな」と言っていただけること、それが嬉しいです。そして、小さな改善とか、お客様が現場で感じている細かいニーズや要望にしっかり形にしていくという私たちの役割を積み重ねていけば、新たなアイデアもいただけます。例えば、簡易的な喫煙ルームとか、僻地での簡易施術室とか、いろいろなことに用途が広がっていくのではないかと思っています。今はいろいろと厳しいこともありますが、これに負けずに頑張っていきます。

~長時間にわたり、興味深いお話をいただきましてありがとうございました~

転載 : 一般社団法人日本真空工業会『真空ジャーナル』177号、2021年7月 4頁~9項

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