真空ポンプ(高真空)の基礎知識

クライオポンプの仕組み

クリーンな真空と大きな排気速度が特長のポンプ

クライオポンプは溜込式真空ポンプで、ポンプ内に設置した極低温面に気体を凝縮、吸着することにより捕捉し高真空から超高真空までの状態を作り出すポンプ です。また、油に汚染されないクリーンな真空を得ることができ、他の真空ポンプに比べ排気速度が大きいことが注目されているポンプです。

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クライオポンプの技術が使われています!

半導体や液晶、ディスク等の電子部品、メガネレンズ、超大型スペースチャンバ排気 など

クライオポンプの特徴

極低温でクリーンな真空が得られる?

 クライオポンプは、気体分子を極低温面で凝縮、吸着させることによって、全ての気体分子をポンプ内に溜め込みことが出来るポンプです。
このポンプの大きな特長は真空容器内で動作するものが無く、油を使用しないためクリーンな真空が得られ、吸着方式のポンプにもかかわらず排気速度が大きい ことです。

長所:すべての気体を排気することができ、超高真空を得ることができる。
短所:溜込式ポンプのため、定期的に気体を放出し再生しなければならない。


クライオポンプの仕組み

2段式でより高真空状態に

コールドステージが2段式であり、1段目は冷凍能力が大きく80K(ケルビン) 以下に冷却することができる。ここで主に水分を排気し、2段目でさらに冷却することによってN2,O2,Ar,H2などの分子を排気し、より高真空を得ることができる。

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極低温が必要なワケ

気体の分子は、0K=絶対零度(-273.15℃)に近くまで冷却された面に触れると、凝縮、吸着するという特性があります。

クライオポンプのしくみ

1.クライオポンプとは

真空容器内に極低温面を設置し、これに容器内の気体分子を凝縮または吸着させて捕捉し、排気するポンプである。
機械的な可動部分が少なく、 油等を使わないため、クリーンで高い真空をつくることができる。
クライオポンプが気体を有効に排気するためには、凝縮の場合には、蒸気圧が、吸着の場合には吸着平衡圧力が10-8Pa以下でなければならない。
図1は、各種気体の蒸気圧を示したもので、窒素より蒸気圧の低い気体は、極低温面(クライオ面またはクライオパネル)が20K以下に冷却されていれば、その蒸気圧は10-8Pa以下になることが分かる。水素、ヘリウム、ネオンのような蒸気圧の高い気体は20Kでは凝縮により排気することができないため、20K以下に冷却された吸着剤により排気される。
このように、クライオポンプはすべての気体を排気することができ、超高真空を得ることができる。

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図1.各種気体の蒸気圧

クライオ面を作成する方法には、閉サイクルの小型ヘリウム冷凍機を用いる方法が一般的である。小型ヘリウム冷凍機を用いたクライオポンプは、液溜型クライオポンプのように定期的に寒剤を供給する必要がなく、簡単な操作で清浄な超高真空が得られ、長時間、安定した連続運転を行うことができる。

2.クライオポンプの作動原理と構造

クライオポンプの構造をCRYO-U8Hを例にとり説明する。
クライオポンプに使用される冷凍機は2段式であり、1段目は冷凍能力が大きく80K以下に冷却することができ、2段目は冷凍能力は小さいが10~12Kに冷却することができる。
15Kクライオパネル(1)(凝縮パネル)と15Kクライオパネル(2)(吸着パネル)は冷凍機の2段ステージに取り付けられており、冷凍能力の大きい1段ステージに取り付けられた80Kシールドと80Kバッフルにより、室温の放射(輻射)熱から保護されている。また、吸着剤は表面が覆われるのを防ぐため、凝縮性の気体の入りづらいクライオパネルの内側に取り付けられている。

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図2.CRYO-U8H

クライオポンプが排気する主な気体は、次の(1)~(3)などである。

(1)空気(N2、O2) :真空装置粗引き後の残留気体
(2)放出ガス 1 H2O :真空容器の壁面に吸着(通常の真空装置では最大の成分) ガラス、プラスチック、セラミックからの放出ガスの主成分
2 H2 :真空容器の金属壁内部の拡散放出(超高、極高真空で問題) 高温、溶融金属(特にAl)からの放出(蒸着、スパッタ)
3 CO、CO2
CH4、CnHm
:真空装置壁面の汚れ
(3)導入ガス 4 Ar :スパッタ装置
5 H2 :イオン注入
6 O2 :酸化物
7 その他

蒸気圧表から、水蒸気(H2O)は クライオ面の温度が130K以下であれば蒸気圧は10-8Pa以下になるため、80K以下に冷却された80Kシールドと80Kバッフルに凝縮し排気されることになる。 窒素(N2)、酸素(O2)、一酸化炭素(CO)、アルゴン(Ar)等の気体は、80Kでは蒸気圧が高いためここには凝縮せず、20K以下のクライオパネル(1)の外表面に凝縮し排気される。

ヘリウム(He)、水素(H2)、ネオン(Ne)等のさらに蒸気圧の高い気体は、 10~20Kレベルの温度では凝縮しないため、15Kクライオパネル(1)(凝縮パネル)の内側に取り付けられた吸着剤に吸着され排気される。 吸着剤が取り付けられている15Kクライオパネル(2)(吸着パネル)は、凝縮性の気体により吸着剤の表面が覆われるのを防止するため、凝縮性の気体の入りにくい凝縮パネルの内側に取り付けられている。
80Kシールド、80Kバッフル、15Kクライオパネル(1)の外表面は鏡面仕上げとなっており、室温からの輻射熱を反射するようになっている。 80Kシールドが内面黒化処理されているのは室温の輻射が80Kシールドの内面で反射し、15Kクライオパネルに入射するのを防ぐためである。 クライオポンプが正常に作動するためには、80Kシールド、80Kバッフルの温度が130K以下、15Kクライオパネルの温度が20K以下であることが必要である。

これらの温度が確認できるように80KシールドにはCA熱電対が、15Kクライオパネルには水素蒸気圧温度計(H2VP)や クライオ熱電対温度計 MB型が取り付けられており、温度が確認できるようになっている。(CA熱電対の130Kでの起電力は-5.5mVが目安となる。)

3.クライオポンプの再生と安全弁

油拡散ポンプやターボ分子ポンプは排気した気体を圧縮してポンプの外に放出するが、クライオポンプは15Kクライオパネルに凝縮と吸着により貯め込んでいるため、定期的に気体を放出し、再生しなければならない。
再生はクライオポンプを室温まで昇温させることにより、凝縮または吸着しているガスを気体に戻すことにより行われる。 貯め込まれた気体の量が多くクライオポンプが密閉状態の場合には、再生の際にクライオポンプ内部が高圧ガスとなる恐れがあるため、クライオポンプには安全弁が取り付けられている。
安全弁の作動圧は、20kPa(gage)に設定されている。
安全弁は安全のためのものであるため、安全弁を塞いだり、他の用途のために改造することは絶対にしないこと。
また、再生時のガス放出用バルブとしては使用しないこと。安全弁が作動すると、パージガス中のゴミ等がシート面に付着し、リークの原因となる。

4.クライオポンプシステム

クライオポンシステムは、基本的には

《1》クライオポンプユニット(冷凍機ユニット含む)
《2》コンプレッサーユニット
《3》フレキホース(2本)

で構成されており、図3のように接続される。クライオポンプを運転するため(クライオポンプは大気圧から使用できない)に必要な粗引きポンプ(Showcaseの低・中真空参考)必要である。

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図3.クライオポンプシステム

クライオポンプの性能

クライオポンプの性能で重要なものは、 (1)冷却降下特性 (2)排気速度 (3)排気容量 (4)最大流量 (5)交差圧力 (6)到達圧力 (7)熱負荷能力 である。
以下ではこれらの項目について説明する。

1.冷却降下(クールダウン)特性

クライオポンプは大気圧から起動することができないため、粗引きが必要である。 ロータリーポンプで粗引きを行う場合は、アルバック・クライオのクライオポンプの場合、油蒸気の逆流が起こらない40Paで十分である。 ポンプ内に残留している気体は、すべてクライオポンプ内の吸着剤が吸着する。冷却時間は次の要因により影響をうける。

表1.冷却降下時間に影響を与える要因

要因 冷却時間
1.粗引き圧 高い 遅くなる
2.ポンプの温度 高い 遅くなる
3.粗引き後の残留ガス組織 ドライ(ポンプ内が乾燥) 遅くなる
水分が多い 早い
4.ポンプの汚れ 汚れている 遅くなる

冷却時間は再生方法により影響をうける。 窒素パージやバンドヒーターの使用により温度が高くなったり、水分がなくなりドライになると真空断熱が達成されにくくなるため冷却に時間がかかるようになる。 また、微小リークがある場合も冷却が遅くなったり、冷却不能になることがあるため気を付けること(安全弁からのリークには特に注意)。 また、60Hz地区の方が50Hz地区より10~15パーセント程度冷却が早くなる。 通常、冷却時間は15Kクライオパネルの温度が20K以下になるまでの時間で定義され、表4-2のようになる。

2.排気速度特性

2-1.水に対する排気性能

クライオ面の水に対する凝縮確率は、クライオ面の温度が150K以下であればほぼ1と見なせる。 通常、クライオポンプの80Kシールド、80Kバッフルの運転中の温度は130K以下(通常は~80K程度)であるため、クライオポンプの水に対する排気速度は、80Kシールドの口径の理想排気速度と等しい排気速度を持つことになる。 分子量Mの気体に対する単位面積当たりの理想的排気速度はsは、
s=62.5/M1 / 2(L/s/cm2)(20℃)
水の場合は、M=18であるため理想排気速度は、s=14.7(L/s/cm2)となる。 80Kシールドの吸気口の面積をA(cm2)とすると、クライオポンプの水に対する排気速度Sは、
S=s・A(L/s)となる。

例えば、8型のクライオポンプの場合、80Kシールドの吸気口の面積は約275cm2であるため、水に対する排気速度は4000L/sと計算される。 80Kバッフルに凝縮し排気される気体(例えばCO2,NH4)についても同様に計算される。 CRYO-U8HのCO2に対する排気速度は、水に対する排気速度が4000L/sであり、CO2の分子量が44であるので、SCO2=SH2O X ( 18 / 44 )1/2=2560 L/sと計算される。

表2.クライオポンプの水に対する排気速度

口径 機種 排気速度(L/s)
6 U6H 2100
8 U8H,U8H-U,U8HSP 4000
10 U10PU 6900
12 U12H,U12H-K2,U12HSP 9500
16 U16,U16P 16000
20 U20P 29000
22 U22H 39000
30 U30H 70000

2-2.Ar、N2(凝縮性気体)に対する排気特性

N2、Ar、CO、O2等の比較的蒸気圧が高い気体は、80Kバッフルや80Kシールドでは、凝縮せず、 20K以下の温度で凝縮し排気される。
クライオ面の温度が20K以下であれば、凝縮性の気体に対する凝縮面の捕獲確率は1であり、また、分子流領域での吸気口からクライオパネルまでのコンダクタンスは一定であるため、分子流領域でのクライオポンプの排気速度は一定となる。

クライオポンプの排気速度のカタログ値は、分子流領域での窒素に対する排気速度で与えられる。 窒素以外の分子量Mの凝縮性の気体に対する排気速度は、次式から計算で求められる。

SM=SN2×(28/M)1/ 2(L/s)・・・・・・・(1)
SN
2:窒素に対する排気速度(L/s)

例えば、CRYO-U8Hのアルゴンに対する排気速度は、表6-3からSN2=1700(L/s)であり、アルゴンの分子量はM=40であるので、この式から、
Sar=1700X(28/40)1 / 2=1400L/s
と計算される。

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図1.CRYO-Uの窒素に対する排気速度

機種 排気速度(L/s)
U6H 750
U8H/U8H-U/U8HSP 1700
U10P 2300
U12H 4000
U12HSP 4100
U16/U16P 5000
U20P 10000
U22H 17000
U30H 28000

表3.各種クライオポンプの窒素に対する排気速度(カタログ値)

気体の流れが分子流から中間流(遷移流)になると、コンダクタンスは圧力に比例するようになるため排気速度は増加してくる。 しかし、圧力の増加とともにクライオポンプへの入熱量も増加してくるため、熱負荷が冷凍機の冷凍能力を上回った時点でクライオポンプの排気の限界になる。 アルバック・クライオでは、 この熱負荷によりクライオパネルの温度が20Kに達した時の流量を最大流量と定義している。(図6-1の○印の点)。 最大流量は、冷凍能力を大きくすれば増やすことはできるが、冷凍能力をいかに強くしても凝縮層の熱伝導率が有限であるため、 厚さ方向に温度勾配ができる。 凝縮層の表面温度が高くなりすぎ限界を超えると、気体は凝縮しなくなるため、排気速度は0となり、 物理的な排気の限界となる。

2-3.H2、He、Ne (非凝縮性気体)に対する排気速度

H2、He、Neは最も蒸気圧の高い気体で、20K程度では蒸気圧が高すぎて凝縮によって排気することが出来ないため非凝縮性の気体とも呼ばれている。 これらの気体は凝縮によって排気することが出来ないため、20K以下に冷却された吸着剤で吸着により排気される。 吸着剤が非凝縮性の気体を吸着するにつれて飽和してくるため、排気速度は徐々に低下してくる。 排気速度が初期値の80パーセントまで低下した時のそれまでに排気した気体量を排気容量と定義している(後述)。
非凝縮性気体のうち、水素は放出ガスの重要な成分であり、応用上重要な気体であるため、詳細に調べられ仕様が決定されている。 ネオンはほとんど使用例がないためデータは少ない。 また、ヘリウムは最も吸着しにくい気体であり、水素の1/100~1/1000程度しか排気できないため、クライオポンプで積極的に排気することは推奨できない。

機種
CRYO-U
排気速度
(L/s)
最大流量
(Pa・L/s)
排気容量
(Pa・L)
-U6H 1100 1.1×102 3.1×105
-U8H 2700 2.4×102 1.0×106
-U8HSP 3200 2.4×102 1.0×106
-U10PU 3600 1.5×102 6.7×105
-U12H 6000 4.1×102 9.8×105
-U12HSP 6000 4.1×102 1.6×106
-U16 10000 4.1×102 2.4×106
-U16P 10000 4.5×102 2.4×106
-U20P 18000 5.0×102 4.6×106
-U22H 25000 1.3×103 8.5×106
-U30H 43000 7.4×102 1.5×107

表4.CRYO-Uの水素に対する排気性能

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図2.CRYO-Uの水素に対する排気速度

3.クライオポンプの排気容量

3-1.凝固性の気体に対する排気容量

凝縮によって排気される気体は、(1)80K シールドまたは80Kバッフルで排気される気体(主に水)と、(2)15Kクライオパネルで排気される気体(窒素、アルゴン、酸素等)である。

(1) 水に対する排気容量
80Kバッフルに水が凝縮し、その氷の厚さが増してくるにしたがって80Kバッフルのコンダクタンスが小さくなってくるため、15Kクライオパネルで凝縮または吸着によって排気される気体の排気速度が低下してくる。 排気速度が大幅に低下してくれば再生が必要になるため、この時までに排気した水の量が排気容量となるが、水については明確な排気容量の定義はない。 しかし、水にたいする排気の限界として下表の値が一応の目安となる。(排気容量の単位がg(グラム)である点に注意)

機種 排気容量(g)
CRYO-U6H 40
CRYO-U8H,U8H-U 90
CRYO-U10PU 170
CRYO-U12H 260
CRYO-U16,U16P 500
CRYO-U20P 1000
CRYO-U22H 1400

表5.クライオポンプの水に対する排気容量(目安)

(1) 水が多い場合
プラスチック
ガラス
セラミック

(2) 水が多い場合の再生時の注意点
昇温時、氷を完全に溶かす
粗引時、水を凍結させない
ポンプ内から水を完全に除去する
ロータリーポンプの性能確認(油の乳化に注意)

(2) アルゴンに対する排気容量

15Kクライオパネルに凝縮する気体の中で排気容量が問題になるのはスパッタの場合であり、アルゴンの排気容量である。 15Kクライオパネル外面の凝縮アルゴン層の厚さが厚くなると温度の高い80Kバッフルや80Kシールドに接触したり、またはアルゴン層自身のなかの温度勾配が大きくなり、アルゴンの表面温度が高くなるため、それ以上凝縮ができなくなってしまう。 この時、それまで排気したアルゴンの量が排気容量となる。 アルバック・クライオでは、アルゴンに対する排気容量を[アルゴン導入を停止し、主バルブを閉じて5分後の圧力が1.3X10-4Pa以下にならない時それまでに排気したアルゴンの量]と定義している。 アルゴンの量が排気容量に達すると、アルゴンの導入を停止しても圧力回復が急激に悪くなり、排気能力がなくなってしまう。 図6-3は、アルゴンを200SCCMで連続導入し、導入停止5分後のCRYO-U12HSPの圧力を示したもので、排気容量の4.3X108Pa・Lを超えたところから圧力回復が急激に悪くなり、排気容量は4.3X108Pa・Lであることがわかる。 表6-6は各機種のクライオポンプのアルゴンの排気容量を示したものである。

図3.CRYO-U12HSPの圧力回復(測定例)
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機種CRYO- 排気容量(Pa・L)
-U6H 5.6×107
-U8H,U8H-U 1.0×108
-U8HSP 2.5×108
-U10PU 1.0×108
-U12H 2.1×108
-U12HSP 4.3×108
-U16,U16P 4.3×108
-U20P 5.8×108
-U22H 8.1×108
-U30H 7.8×108

3-2.非凝縮性気体に対する排気容量

水素、ヘリウム、ネオンのように10K程度では凝縮によって排気できない気体は、15K クライオパネルの内側に取り付けられている吸着剤によって、吸着により排気される。 したがって、吸着量が増大し、飽和状態に近づくにしたがって、 (1) 排気速度が 低下し、(2)吸着平衡圧力が高くなってくるため、排気性能は徐々に低下し、ついには排気できなくなってしまう。 アルバック・クライオでは、水素に対する排気容量を、水素の排気速度が初期の排気速度の80パーセントまで低下したとき、それまでに吸着した水素の量と定義している。 吸着剤が所定した吸着能力を発揮するためには、吸着剤が清浄であることが必要となる。 吸着剤の汚染は、

(1) 凝縮性の気体(主に空気)を吸着した場合
(2) 水分を吸着した場合
(3) 油蒸気を吸着した場合

であり、これらの物質を多量に吸着すると水素に対する吸着に能力の低下が起こる。 空気や水分はクライオポンプを再生することにより除去することができるが、油蒸気は一度吸着されると二度と除去することができないため15Kクライオパネル(2)(吸着パネル)の交換が必要となる。 クライオポンプの水素に対する性能を維持するためにも、クライオポンプに油蒸気が逆流することは絶対にさけるべきである。
図4は、水素に対する排気速度と、排気した水素量との関連を示したグラフで、Sが排気速度、Cが排気容量である。 各機種の水素に対する排気速度、排気容量は、図4を参照すること。

図4.水素に対する排気速度と排気容量の関係
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4.クライオポンプへの熱負荷と最大流量

クライオポンプへの熱負荷は、輻射熱とガス負荷(気体による熱伝導、凝縮熱)であり、それぞれ次式で与えられる。

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σ :ボルツマン定数 5.67×10-12W/cm2/K4
εAV :平均の輻射率
T1 :低温面の温度(K)
T2 :高温面の温度(K)
A :受熱面積(cm2)

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A1:内側 A2:外側

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γ :気体の比熱比
0 :平均の熱的適応係数
:圧力(Pa)
M :分子量
T1 :圧力Pを測定する所の温度(K)
T2 :低温面の温度(K)
A :受熱面積(cm2)

平均の熱的適応係数0の式(A1<A2)

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適応係数1,2(近似値)
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γ :凝縮熱(H2,He,Neの場合は吸着熱)(W/Pa・L/s)
Tc :クライオ面の温度(K)
Tg :気体の温度(K)
S :クライオポンプの排気速度(L/s)  SP:(Pa・L/s)
P :圧力(Torr)
Cp :気体の平均の比熱(W/(Pa・L/s)/K)

冷凍機の1段への熱負荷は輻射熱と気体の熱伝導によるものであり、10-1 Pa台での連続使用を行わないかぎり、通常は大部分が輻射熱によるものである。 気体の凝縮熱は冷凍機の2段への熱負荷であり、これにより最大流量が決定される。 冷凍機2段の冷凍能力は1段への熱負荷の影響を受け、1段への熱負荷が多くなると2段の冷凍能力が低下し、最大流量も低下することになる。
従って、クライオポンプへの導入気体量が多い場合は、クライオポンプを清浄に保ち(輻射熱を小さくする)輻射熱による熱過負荷を低減すべきである。 一般に、大型クライオポンプの方が受熱面積が大きく、輻射による入熱が多いため冷凍能力の大きい冷凍機が必要である。 クライオポンプの最大流量は、標準的輻射熱の時に、凝縮熱(または吸着熱)によりクライオパネルの温度が20Kとなったときの流量で定義される。 最大流量は、ポンプの口径が同じであれば、冷凍機の冷凍能力の大きいほうが、また、排気速度の大きいほうが大きくなる。 例えば、CRYO-U16とU16Pとでは同じ口径で、同じ排気速度を持っているがU16Pの冷凍機(R50)の方が、U16の冷凍機(R20)よりも冷凍能力が大きいため最大流量も大きくなっている。
クライオポンプの最大使用圧力Pmaxは、この最大流量Qmaxをその時の排気速度Smaxで割る事によって得られる。(Pmax=Qmax/Smax)。 アルゴンガスの場合のPmaxは10-1 Pa台であり、中間流である。表7に各機種の最大流量を示しておく。

クライオポンプの最大流量

アルゴン
(Pa・L/s)
水素
(Pa・L/s)
CRYO-U6H 1.1×103 1.1×102
CRYO-U8H,U8H-U,U8HSP 1.2×103 2.4×102
CRYO-U10PU 8.0×102 1.5×102
CRYO-U12H,U12HSP 2.0×103 4.1×102
CRYO-U16 1.4×103 4.1×102
CRYO-U16P 1.6×103 4.5×102
CRYO-U20P 1.1×103 5.0×102
CRYO-U22H 4.1×103 1.3×103
CRYO-U30H 2.7×103 7.4×102

5.交差圧力(クロスオーバー)

交差圧力とは、真空槽を粗引きしメインバルブを開けクライオポンプに切り換えるときの真空槽の圧力(粗引圧力)と定義される。 この時許される最大の粗引圧力を最大許容交差圧力という。 メインバルブを開けた瞬間に真空槽の気体はクライオポンプに流入し排気されるが、気体の量が限界を越えるとクライオポンプは再び排気能力を回復できなくなり、昇温し、それまでに排気した気体を放出してしまう。 最大許容交差圧力は、その限界の気体量(処理し得る最大のガス吸込み量)を真空槽の容積で割ることにより得られる。


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処理し得る最大のガス吸込み量は、排気性能を回復できる限界値(通常クライオパネルの温度は20Kをこえる)で与えられる。 しかし通常は安全のため(1)式で得られる最大許容交差圧力の1/2を限界の粗引き圧力とする。 さらに安全率を取る場合は、クライオパネルの温度が20Kを越えないような値を最大許容交差圧力とする場合もある。 処理し得る最大のガス吸込み量はクライオポンプへの熱負荷や、クライオポンプ内に凝縮している気体の量によって変化する。

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表6-8は、各機種の処理し得る最大のガス吸込み量(空気に対して)の目安を示したものである。 例えば、100Lの容積の真空容器の最大許容交差圧力Pmaxは、U8Hの場合、処理し得る最大のガス吸込み量が133000Pa・Lであるので、Pmax ≤ 133000Pa・L/100L=1330Paとなり、粗引圧力は1330Pa以下となる。 通常は安全率を2倍とし、粗引圧力を665Paとする。 20Kを越えないようにするためには、処理し得る最大のガス吸込み量を20000Paとし、P=20000/100=200Paとする。 真空容器の容量が大きく、粗引圧力が40Pa以下になる場合は、油蒸気の逆流対策を施すか、それより大型のポンプを取り付けるか、ポンプの台数を増やして粗引圧力を40Paかそれ以上にする必要がある。

6.到達圧力

クライオポンプに気体の流量が無い時の到達圧力は、凝縮性の気体に対してクライオ面温度での各気体の蒸気圧と凝縮係数(ここでは1と仮定)できまり、次式で与えられる。

Pg=Ps(Tg/Ts)1/2

Ts :クライオ面の温度 10~20K
Ps :温度Tsに於ける気体の蒸気圧(水素の場合は吸着平衡圧力)(Pa)
Tg :気体の温度 ~300K

凝縮性気体のうち、最も蒸気圧の高い気体は窒素であるので、窒素についてクライオ面の温度が10~20Kの時の到達圧力を図6に示す。 通常、負荷のない状態ではクライオパネルは10~12K程度であり、蒸気圧による圧力は~10-21Paであるため、実用上は完全に無視することができる。 非凝縮性の気体である水素に対する到達圧力は、吸着平衡圧力によって決定される。 図6-7に示すように、クライオポンプで使用されている活性炭の水素の吸着能力は非常に大きく、また、超高真空で運転されている場合は、排気される水素の量が非常に少ないため、水素の吸着平衡圧力Paも無視することができる。 (例えば、U8H(SH2O=2700 L/s)が1.3X10-8Paで1ヶ月運転された場合の水素吸着量は、Q=1.3×10-8x2700×30x24×3600=91 Pa従って、クライオポンプの到達圧力はクライオポンプへの流入気体量と排気速度との釣り合いで決定される。 通常、クライオポンプ単体での到達圧力はクライオポンプに盲フランジをし、クライオポンプへの気体流入量を最小限におさえて測定される。 また、到達圧力はクライオポンプの仕様(標準仕様と超高真空仕様)や粗引圧力、ベーキングの有無によっても大きく異なる。 通常0-リングシールで、粗引40Pa、ベーキング無しの場合、12時間程度の運転での到達圧力は(1~4)X10-6Paである。 図6-7はベーキングした場合と、しない場合の残留ガス組成の測定例をを示したものである。 また、表6-9はクライオポンプ単体での到達圧力の目安を示す。 超高真空仕様で十分にベーキングした場合では10-10TPa台の極高真空が得られている。 装置の到達圧力は、装置からの放出ガスの量で決定される(P=Q/S)。

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図6.蒸気圧で決まる到達圧力


活性炭の水素に対する吸着温線

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クライオポンプの到達圧力(目安)

仕様 粗引圧力(Pa) ベーキング 到達圧力(Pa)
標準 40
40
なし
(100~150℃)×(3~10h)
(1~4)×10-6
(1~4)×10-7
超高真空 10-2~10-3
10-2~10-4
10-2~10-3
なし
(200~220℃)×(3~8h)
(200~220℃)×約20h
10-8
10-9
10-10

[クライオポンプの基礎知識 5 ]

冷凍機の構造と冷凍の原理

冷凍機の構造と冷凍の原理
1.冷凍の原理(一般的説明用)

図1.冷凍の原理

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クライオポンプに利用されている代表的な冷凍サイクルは、
(1) ギボード・マクマーン(マクマホン)(Gifford-McMahon)サイクル(G-Mサイクル)
(2) モディファイド・ソルベイ(Modified-Solvay)サイクル(M-Solvayサイクル)である

2.クライオポンプに利用されている冷凍サイクル
クライオポンプの構造をCRYO-U8Hを例にとり説明する。
クライオポンプに使用される冷凍機は2段式であり、1段目は冷凍能力が大きく80K以下に冷却することができ、2段目は冷凍能力は小さいが10~12Kに冷却することができる。
15Kクライオパネル(1)(凝縮パネル)と15Kクライオパネル(2)(吸着パネル)は冷凍機の2段ステージに取り付けられており、冷凍能力の大きい1段ステージに取り付けられた80Kシールドと80Kバッフルにより、室温の放射(輻射)熱から保護されている。

図2-2はG-Mサイクルの作動原理とP-V線図(膨張室の圧力Pと容積Vの関係を示したグラフ)を示したものである。

2-1.G-Mサイクル
G-Mサイクルは1950年代の終わりにGiffordにより開発された冷凍サイクルで、デイスプレーサーの駆動方法には、機械的に駆動する方法と、作業ガスの圧力差を利用して駆動する方法とがある。G-Mサイクルは効率が良いため駆動速度が遅くでき、また、内部に使用しているシールにかかる負荷も軽いため、高性能で信頼性の高い冷凍サイクルである。ここでは、アルバック・クライオが使用している機械的にディスプレーサーを駆動する冷凍サイクルについて説明する。

A はじめディスプレーサーはシリンダーの最下部にある。この時低圧バルブが閉じ高圧バルブが開く。

        ↓

(a) シリンダーの室温・低温部に高圧ガスが充填される。

        ↓

B シリンダー内部は高圧となる。

        ↓

(b) ディスプレサーが引き上げられ、室温のHeは蓄冷器で冷却されながら低温部に充填される。

        ↓

C 低温部は最大容積となる。この時高圧バルブが閉じ、低圧バルブが開く。

        ↓

(c) 低温部の高圧ガスを蓄冷器を通して放出する。この時サイモン膨張によりガスの温度が下がり、低温が発生する。

        ↓

D 低温部は最低圧力となる。

        ↓

(d) ディスプレーサーは押し下げられ冷却されたHeは蓄冷器を冷却しながら室温部に移送される。

        ↓

A もとに戻り、1サイクルが完了する。

rei_02.gif

rei_03.gif

このように、理想的なG-MサイクルではP-V線図は四角形となり、1サイクルの周期をt秒とすると、理想的冷凍能力

Q ideal は
Q ideal =W/tで与えられる

rei_04.gif

実際の冷凍機では15K以下の極低温を得るために2段式の構造をとっている。 また、構造を簡略化するために蓄冷器をディスプレーサーの内部に組込み一体化している。 1段、2段シールには差圧がかからず、シールへの負荷が軽くなるために長寿命で信頼性の高いものとなっている。

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